第79話
「今日は楽しかったね、お兄ちゃん」
「そうだね、楽しかった」
一緒に帰り道を歩き、隣で明音ちゃんが微笑む。
映画を見た後、一緒にご飯を食べ、雑貨などを見たりして、楽しんだ。
「でも……今度は凛さんとも一緒に行きたいかな。三人でお揃いの物買ったりさ」
「……そうだね」
そう言って、なんだか力なく笑う明音ちゃん。
…?少し疲れちゃったのかな。
「お兄ちゃんはさ……」
「ん?何?」
「…………何でもない」
そう言って、僕より先に進んでしまう。
少しだけ、歩調が合ってない中で家に帰ると……。
「お帰り、結人、明音」
「ただいま」
「ただいま、凛さん」
「あのね、結人。こっち、来て」
「なんですか?」
家にかえって早々、僕の手を取り駆け出す。
リビングに行くと凛さんが作ったのかいろいろな料理が並べられていた。
「これ、私が作ったんだよ?」
「すごいですね、凛さん。どれもおいしそうです」
「ふふっ。そうでしょ?私、とっても頑張ったんだから。結人の為に」
「え!?僕の為にですか?」
「そうだよ?いつも頑張ってくれているから」
「……ありがとうございます」
恥ずかしくて照れて、下を向いてしまう。
なんだか今日は良い事ばかりだ。明音ちゃんと一緒に買い物に行けたし、凛さんは、僕に料理を振舞ってくれる。
「さ、明音も席について。結人も。今、母さん呼んでくるから」
「分かりました」
「…分かった」
そう言って、嬉しそうにリビングを出ていく凛さん。
「さ、明音ちゃん、座ろ?」
「…………んっ」
そう言って、僕の袖を握る。
下を向いていて今、どんな顔をしているのか分からない。
不思議に思っていると、段々と握る力が強くなっていく。なんだか、どうしたの?と聞くのも無粋なような気がして、何も声がかけられない。
「……お兄ちゃん。……」
「……」
そう言って、前を向いて何か言おうとしかけて
「あ、ごめんね。待たせちゃって。………どうしたの?」
そこで、凛さんが母さんを連れてきて事なきを得た。
「う、ううん。何でもないの。さ、お兄ちゃんも席について」
「う、うん。分かった。ありがと」
そこからは、凛さんが作った美味しいご飯を食べ、お話したりしたが、どうにも、明音ちゃんが何を言おうとしたのか気になってしまう。
だけど、その先を聞いてしまったら何か戻れないような気がして一歩踏み出せない。
すごくもやもやする。
他の事を考えても、片隅にはあって、どうしても邪魔をする。
あー、すごくもやもやする。
そんな時、ドアをノックされる。
「ちょっと、待っててください」
そう言って、ドアの前には誰もいなかった。その代わりに少し大きめの付箋が張ってあった。
『今日はありがと。あと、ごめんなさい。それと………あの先の言葉がちゃんと分かった時、私に言って。答え合わせしようね』
…………あー、もう。ほんとにわかんない。
誰もいない薄暗い廊下で呟いた声は、溶けて消えてはくれず、僕の頭で反芻し続けた。
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