第18話 初めての旅行

車で揺られること、数時間。車からは海が見える。


中からでも空気が澄んでいると思えるくらいにきれいだった。まぁ僕が浮かれているからそう見えるのかもしれないけど。


昨日父さんが、帰ってきて唐突に行くことになった家族旅行。


母さんはもちろん承諾して、僕も旅行なんて行ったことなかったから頷いて、明音ちゃんは...........少し迷って小さくこくりと頷いて。


凛さんは...........そんな明音と母さんをじっと見て、そして、僕をちらっと見て「私も行く」と言った。


そんなこんなで来たのは、某温泉地だった。


宿はもう父さんがいつの間にか予約を取っていたので、僕たちは荷物を置いて少し見て回ることにした。


父さんは運転が疲れたと言って少し休むから宿で待つって言ってそんな父さんを見て母さんも用事があるからと言って僕たちだけを送り出した。


……父さんなりに気を使ったんだろうな。母さんは…多分?父さんと積もる話でもあるのかもしれない。


それにしても、急な旅行だったから何も考えてきていない。


「どこ行こっか」

「うーん...........」

「……」


二人も困った顔をする。いくら温泉地とはいってもこんな昼間から入る気は起きない。


こんな時、父さんに、中一のころに買ってもらったスマホが役立つかもしれない。

友達もあんまりいる訳じゃないし、使い方があんまり分からないから、父さんへの連絡用としか使っていなかったけど。


調べると、神社とか商店街があるらしいし、そこに行ってみるか。明音ちゃんと凛さんに聞くと二人もうなずいた。


僕は先導して、後ろから喋りながらついてくる。


歩くこと数十分。目的地の神社に着いた。冬休みに入ったからかそこそこの観光客がいた。


なんか、悪いけれど…地元の神社がかすんで見えるのはしょうがない。目の前の神社が壮大で、美しく見える。……旅行補正かもしれないけれど。


でかい鳥居や、大きい木を見るたびに、「うわぁ...........」とか「わぁー」とか気の抜けた声しか出せなくて、ちらっと見るとそれは二人も同じみたいだ。


神社を十分見て回った後、凛さんと明音ちゃんがトイレに行ってくると言ったので、近くのあまり人がいない少しだけ開けた場所に行く。


そして、数分経ち、数十分経ち、三十分経つ。


...........大丈夫かな。かなり心配になってきた。


探しに行こうと、一歩足を踏み出した時


「新條結人君」


凛さんの声が聞こえ、進むのを止める。


「あ、凛さん。明音ちゃんはどうしたんですか?」

「それが、いなくなっちゃったの」


凛さんがそう言った。




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