第20話 言わなきゃいけない事と信じる気持ち
「起きて、兄さん」
ゆさゆさ揺さぶられて、起こされる。この声は……明音ちゃんか...........?
「おはよう。兄さん」
「……おはよう。明音ちゃん」
そっか。確か、旅行に来てたんだっけ。
「結人、おはよう」「結人君おはよう」
「おはよう父さん。それと母さん」
今の時間は..........七時か。
「ほら、結人。起きてご飯食べて、みんなで外に出よう」
「うん」
ご飯を食べ、みんなで外に出て、父さんと母さんが先導して歩いていくので、僕たちはその後ろをついて行く。
後ろから見ると、父さんと母さんは夫婦なんだなぁと何だか分からないけれど、感慨深げに頷いてしまう。
明音ちゃんと凛さんの方を見ると、こちらも楽しそうに話している。
すると、凛さんがこちらをちらっと見てすぐに前を向く。
朝から、こんな感じなんだよな。..........明音ちゃんが僕に言ったことを聞いて、居心地が悪いのかもしれない。
そんな感じになんだかんだ歩いて、商店街に着く。どこかレトロな雰囲気を感じさせるそんなところ。
そこからは、自由に食べ歩きしたり、明音ちゃんがほっぺにクリームがついていて、可愛らしいところが見えたり、父さんと母さんがカフェでいちゃついているのを少し恥ずかしかったり、うんざりしたりと家族の時間を過ごせた。
午後からは、車を借りて神社の参道を歩いて古泉に行ったりと充実した、楽しい一日を過ごせていた。
宿に帰り、明音ちゃんと凛さんが海が近いので行ってくると言って部屋を出ていく。数分ほどして、
「結人君、あの二人心配だからついて行ってくれないかな?」
「俺が行っても、微妙な雰囲気になるだけだからな」
「お願いします」
「俺からも頼む」
二人に頭を下げられて断れるはずもないし、僕も気になっていたから頷く。
「分かったから、顔上げて。僕も心配だし、当り前のことだから」
「……結人も大人になっていくんだな」
「なんだよそれ。父さんより大人だから」
「ははっ。生意気なこと言ってないで早く行ってこい」
「結人君。お願いね」
僕は頷いて宿を出る。
「結人君、ホントにいい子ですよね」
「俺に似て、頭がよくて優しく育ったんだな」
「そうですね。ほんとにそう思います」
「..........冴香さん、茶化しているのに真面目な顔しないでください」
「ふふっ。そう言うところも似ていますね」
走って、二人を追いかける。そして海に着くけれど、二人がいない。十分ほど探しても見つからない。必死に探してみるけれどやっぱり見つからず。
何処に行ったんだろう。もしかして、もう帰っちゃったとか?でも、どこかで怪我をしていたら..........。.......っ。もう一回さがそう!!
そう思いながら、歩くこと数分。
コンビニの近くで一人立っている凛さんを見つけた。
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明音と一緒に海まで行き、トイレに行きたかったため歩いて数分のコンビニに寄っ
た。
「少し待ってて」
「うん。外で待ってるね」
トイレをして、外で待っているだろう明音に明音が好きな肉まんを買って、そして、コンビニから出ると、外で待っているといったはずの明音がいなくなっていた。最初はドッキリか何かかと思った。あの子はたまにそう言う事をしてくるから。
でも、違った。どこを探してもいない。
探すこと数十分。段々不安になっていった。鼓動がやけにうるさい。
そしてさらに探すこと、数分。別の人を見つけた。新條結人だ。
声をかけようと思ってストッパーが懸かった。昨日の事が私の頭をよぎる。
明音が昨日彼にあの事を言ったことは分かってる。でも、そのことを聞いて、私と顔を合わせても普段通りの態度だった。それに、今、ここにいるという事は、彼は多分私たちが心配で様子を見に来たんじゃないか。そう思う。
..........違う。それは、きっと私が自分の都合よく、助けてもらうためのいい訳だ。
彼も多分、海を見に来たんだ。そう考えた方が自然だ。だって私が昨日彼に嘘を、ひどい事をしたんだもの。
助けて、そう言っても嘘だと、そう言われる可能性の方が高い。
しょうがない。だって私がしたことなんだもの。助けてなんて都合がいい事だって分かってる。
でも...........もし、明音に何かあったら...........。
だから、今ここにいるってことは...........でも...........でも..........だって..........でも.........。
考えて、考えて、ループして。そしてまた動けずにいる私。
いい訳して、都合のいいことばかり考えて、動けない。
お母さんが殴られている時、明音が殴られそうになった時、私は、いつも動けなかった。
だから今度こそ、そう思って彼を試して、明音たちを守ろうとそう意気込んでいた。でも、今、肝心な時は過去を思い出して私は小さく隅の方で怯えていて。助けてその一言ですら言えない。
無意識に下を向いてしまっていた。情けない私の涙で地面が濡れていた。また、負の感情が私を染め上げようとして、
「どうしたんですか?大丈夫ですか?」
「……」
声がかかる。彼だ。ここで言わないとダメだ。ここで動かなければ人としてダメだ。声がかすれる。けれど、
「ゆ、結人君。新條結人君。助けてください」
彼は、私の頬を伝っている涙をハンカチでそっと拭って、
「分かりました。任せてください」
そう微笑んで、当り前のように言った。
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