第57話 お互いの言えない事。
「大丈夫かなぁ、お兄ちゃん」
「心配だなぁ」
お兄ちゃん、大丈夫かな。
お兄ちゃんが目を覚ましてから、もうなんだか、私の中でお兄ちゃんが私の中で絶対的なものになっている気がする。
今は、何よりもお兄ちゃんを大事にしたい。そんな気持ちなのだ。愛おしくてたまらない。お兄ちゃんが起きなくて、不安で不安でたまらなかった反動なのか、もしくは私の中にあった感情が肥大化したのかとかどんなことが理由であってもいい。
早く会いたいし、無理をしていないか心配になる。
お兄ちゃんは優しすぎる。自分の事を疎かにしすぎている。もう今度からは絶対に無理はさせないって心に誓った。
これからは、私がお兄ちゃんに尽くしたい。あわよくば…なんて思ったりもしているけれど、それは、お兄ちゃんが完全に治ったらだ。
「えっと、教科書とかは…たぶん学校のカバンね」
「あとは…引き出しのノートだね」
引き出しを開くと、今まで私たちがあげた物がきれいに置いてあった。
「『いつも、ありがとう。これからもよろしくお願いします』ってなにこれお姉ちゃんいつの間にこんなの渡したの?」
「こら、勝手に人が上げた物を見ない」
コツンっと頭を叩かれる。
「私も、お兄ちゃんに手紙か何か書こうかな」
「それってラブレターってこと?」
意地悪い笑みを浮かべ、こっちを見てくるお姉ちゃん。
「ち、違うよっ。というか今はそんな事しても、お兄ちゃんが受け入れてくれるか分からないもん」
「ふふっ。それもそうね。それでノートは…なにこれ?僕ノート?」
「変な名前だね。お兄ちゃんの日記かな?ちょっと見たいかも…」
「…駄目よ。結人に怒られちゃうわ」
「そうは言っても、お姉ちゃんも気になるでしょ?ちょっとだけだから」
「…。………。そうね。ちょっとだけなら…」
そう言って、恐る恐る一ページ目を捲る。
『今日は、八月*日。今日から、僕は、姉妹と少しでも仲良くなるために分かった事、嬉しかった事、好きな事、嫌いな事、好きなものとか書いていこうと思う。姉妹と仲良くなるための、僕の、僕による、僕のためのノート、略して僕ノートだ』
「これって……」
こっちをちらっとお姉ちゃんが見て、私がこくんと頷く。ページをさらに捲る。
『学校が始まって、明音ちゃんたちとはまだ喋れていないけれど、今日、初めてまともに喋れた。名誉の傷って奴かな。ヒリヒリして痛いけれど、明音ちゃんが大事にしていた髪を守れたのは良かった。明日は、もう少しだけでもいいから、明音ちゃんたちと仲良くなれますように』
『九月*日。明音ちゃんたちが待ちに待った、体育祭だった。二人とも輝いててすごく良かった。……それより、明音ちゃんの背中をしっかり推すことができたかな?気障だとか思われなかったかな。ちゃんとお兄ちゃん出来ていただろうか。不安は尽きない......。明日はもっと仲良くなれますように」
気障なんかじゃないよ。あの時、すごく嬉しかったよ。ちゃんとこれ以上のないくらいにお兄ちゃんだったよ。
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『家族旅行の日、凛さんは多分、誰よりも家族思いなんだなって思った。自分よりも、多分、明音ちゃんや母さんが大事なんだ。凛さんのように強くなりたい。
申し訳なさそうな顔をしていたけれど、旅行から帰っても喋ってくれるかな?そうだと良いな。明日はもっと仲良くなれますように」
私は、そんなに強くないよ…。結人の方がずっと強いよ。
『僕の誕生日の日。もうなんて書いたらいいんだろう。興奮して頭がまとまらないや。どの誕生日プレゼントも飛び上がるくらいに嬉しかったけれど、凛さんの栞のあの言葉だけで何か報われたような、とにかくうれしい。文庫本が涙で濡れてしまうくらいに。明日はもっと仲良くなれますように』
ふふっ。少しだけ恥ずかしかったけれど書いてよかったわ。直接反応見たかったなぁ。
そのほかにも、私たちとの思い出や私たちの好き嫌いなどが書いてあってどれも一つ一つ丁寧に見ていく。
懐かしさや、結人に対して悪いことしてしまった過去の自分を殴りたいやら、つい笑ってしまうような小さなことまで、書いてあって。
そして、最新のところまで来る。
『8月*日。もう、このノートはもしかしたら要らないくなるかもな。明音ちゃん達とは十分仲良くなったし。
ノートちゃんと取っておくけれど。
もう要らなくなるかもしれないし、今の僕の気持ちをここに残そうって思う。
ここまでいろいろあった。最初は嫌われて、少し嫌な気持ちにもなった。距離の詰め方が分からなかったり、痛い思いをしたこともあったけれど、僕は二人と家族になることができて良かったなって思う。
明音ちゃん、料理が得意で、少し勉強が苦手。母さんに少しにて、お茶目な部分も少しある。可愛くて、優しい可愛い妹。
凛さん。勉強もできて、家族思いで、でも、料理は苦手だけれど努力して頑張るかっこよくて優しくてきれいな、僕の自慢の姉。
こんなに素敵な人達と家族になれて僕は幸せ者だなって思う。
僕と家族になってくれてありがと。僕の兄妹(姉弟)になってくれてありがとう。これからもよろしくお願いします。
って書いても本人たちには恥ずかしくて言えないかな』
……あれ?
いつの間にか、私はそのノートをぎゅっと握っていて、涙が出ていた。いつから泣いていたのかも分からない。
私もだよ。……そう直接言ってあげたい。
隣を見ると、「ごめんね、それと、私と兄妹になってくれてありがとう。大好き。大好きだよ」そう言って、涙が頬を伝って、流れ落ちる。
「早く、結人のところ行こっか」
「そうだね。私、お兄ちゃんに早く会いたい」
私も、結人の事大好きだから。
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