第58話 言えない事が言える。

 外を見ると、太陽が沈みかけていた。


 流石に、何もしてないと辛いなぁ。と言っても何もできないんだけれど。

 

 僕が何かしたら、明音ちゃん達が怒るだろうし、安静にしていたはいいものの、流石にテレビにも飽きて空を見る。


 そうしていると、不意に扉が開く。


「お兄ちゃん、ごめんね。遅くなっちゃって」

「ごめん、結人」

「大丈夫ですよ」


 遅くなっちゃったことは別にいいんだけれど、どうしたんだろう。二人とも少しだけ涙痕が残っている。


 それに...なんだか二人とも、僕を見る目が妙に優しいし、できるだけ僕の近くに寄ろうとしているのか距離が妙に近い。


「えっと、その…どうしたんですか?二人とも?」

「何が?私は何ともないよ?」

「私もおかしなところは何も無いわ」

「そ、そうですか」


 そう言われちゃ、僕からは何もできなくなってしまう。そうされたまま数十分後。


「あ、そう言えば、お兄ちゃん、はいこれ」

「ありがとう、明音ちゃん」


 頼んでいたものが届く。袋を開けてみると、教材のほかにしっかり僕ノートも入っていた。


「凛さんもありがとうございます」

「これくらいの事なら、いつでもしてあげるから」


 そう言って凛さんは優しく微笑む。本当に頼りになるよなぁ。


「わ、私もいつでも頼ってね」

「分かった。明音ちゃんもよろしくね」

「うん」


 明音ちゃんも僕に何かしたいのだろう、そんな風に言ってくれて頬が緩む。


 多分、母さんを助けてくれたことに二人とも、かなりの恩を感じているのかもしれない。


 そんな風に感じなくてもいいのに。家族なんだから。いつも通りでも僕にとっては十分すぎているから。


 そんな事を思いながら、二人は僕の事を看病しつつ、夏休みの宿題やら高校の課題を終わらせていく。この雰囲気、なんだかすごく好きだ。まるでリビングで三人で一緒に勉強をしているような。…まぁ、病室なんだけれど。


 僕は、僕で受験生だから、片手で教科書とかを見ているはいいけれど、少しだけ疲れてしまったので、二人がこっちを見ていない事を確認して久しぶりに僕ノートを見る。


 ……?


 開くと、少しだけシミのような、水が垂れていて文字が滲んでいた。


 …。………そう言えば、入ってきたとき、二人には涙痕があったような気がする。


 えっと、その…。いや、もしかしたら、違うかもしれない。途中で何かの事故で水が飛んできてしまったのかもしれないし。


 恐る恐る、二人に聞いてみる。


「あの…明音ちゃん。凛さん」

「何?結人?」

「どうしたの?お兄ちゃん。何か食べたいもの?ある?おなかすいちゃった?」

「いや、おなかは大丈夫んなんだけれど…。…見た?」


 聞いている僕が少しだけ恥ずかしくなってしまう。だって……これは半分日記のようなものだしそれに最後に、少し恥ずかしいことを書いちゃっているし。


「えっと、その…。ね?お姉ちゃん」

「…えっと、その、ね?明音」

「…。…見ました?」


 少し二人は気まずそうな顔を浮かべて、こくんと頷いて白状した。


「それで…どこまで見ましたか?」

「えっと、その…最後まで」

「見てしまったわ」


 その瞬間、少しだけ恥ずかしくなってしまう。


「で、でも、結人。いい日記だと思うよ」

「お兄ちゃん、ありがとね」


 あぁ、もう、なんだか、顏から湯気が出そうだ。最後まで見られたなら、なんかもう吹っ切れて、直接言ってしまった方がいい気がする。


「えっと、その、日記に書いてあることは、全部僕の本心です。僕の家族になってくれてありがとうございます。二人が僕の家族になってくれて、僕は本当に幸せだなって思います。これからもよろしくお願いします」


 なんだか、告白している気持ちだ。恥ずかしくて俯いてしまう。


 そうしていると、僕の頬に手が添えられ、顔を上げる。


「私もお兄ちゃんが家族になってくれて、ありがとうって思ってるよ。…。…すき」

「私も、結人が私の弟になってくれてほんとに良かったな。って思ってる。ありがと。大好き。これからもよろしくね」

「っ…。はぃ……」


 凛さんも優しく僕の頭を撫でる。


 不意打ちで、好きだと言われてびっくりしたけれど、多分家族としてだ。それ以外、あり得ないし。


 そのあとは、二人に身を委ねて、なんだか、さらに二人が僕に甘くなったような気がした。


 



 


 


 

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