第32話 入学式と浮かない顔

休日をもらってから、はや数週間たち、春休みに入り、充実した日々を過ごしてきた。


そんな春休みももう終わりかけている。


「結人。ねぇ、結人」

「え?あ、はい。なんですか」


あの日から、僕の事を結人って名前で呼んでくれるようになった凛さん。もしかしたらあの日限定だったのかも、とか心の隅で思っていたけれど、次の日もしっかり僕の事を結人って言ってくれてなんだか泣きそうになって、凛さんがあたふたしていたっけ。


今は、それより.........


「これ、似合ってるかな」


後ろを向くと凛さんが高校の制服を着ていた。その場で一周回って恥ずかしそうにしていて可愛い。


勿論、良く似合っていて、


「とてもよく似合ってます」

「ふふ、そっか。ありがと」


満足そうに、リビングから出ていく。


良かったぁ.........。と声が漏れる。


そっか、もう凛さんの入学式か。


新学期の登校日が入学式と被ってないから僕も行きたい。


そんな事を思っていると、僕は、凛さんの卒業式の日の事を思い出す。


僕は受験合格の事やお祝いの事で式直前まで、頭が一杯だったけれど、僕は自分の卒業式でさえ泣くことはなかったのに、初めて卒業式で涙ぐんでしまった。周りに同学年の人がいるから、どうにか膝をつねってこらえたけれど。その日はみんなで外食したっけ。


あの日は僕.........より母さんの方がすごい泣いていた。座っていた席から、偶々母さんが見えて。


多分、今までの事があるからあの時、ああやって凛さんが堂々と卒業証書をもらったときに泣いてしまったんだと思う。


そんな卒業式を終え、高校に合格して、明日からは華の高校生だ。でも、なんだか凛さんは浮かないような顔をここ数日している。


だからさっき、満足そうにリビングを出て行った凛さんを見て安堵のため息が出た。


ホントにどうしたんだろう。なんだか、学校の登校日が近づいて行くのにつれて段々と浮かない顔をしているときが増えているような。


.........思い切って言ってみるか?それとも、明音ちゃんか母さんに相談しようかな。


一人で抱えこんだらダメって、ここ最近段々と仲良くなってそんな事を言われた。抱え込んでいるつもりはなんだけれど。


「お兄ちゃん、どうしたの?」

「ん?」

「なんだか、物思いにふけっているような顔をしてたから」

「んー」


明音ちゃんが僕の顔を、目をじっと覗いてくる。僕を探っているようなそんな感じ。


どうしよう。言うべきか、言わないべきか.........。


「明音―。ちょっと手伝ってー」

「うん、わかったー。じゃ、ちょっと手伝ってくるね」


てとてと、と小走りで母さんの元に向かう明音ちゃん。……可愛いなぁ。


じゃなくて。


頼る前に、一回凛さんに聞いてみるか。それで、ダメだったら明音ちゃんに相談した方がいいな。


僕は、リビングを出て凛さんの部屋の前に立つ。


ふぅ.........。なんだかただノックするだけなのに、妙に緊張しちゃうんだよね。


もう一度、深呼吸をしてノックをしようとした時.........。


「痛っ.........」

「あ、結人。ごめん」

「大丈夫です。ありがとうございます」

「ほんとにごめんね」


そう言って、おでこを撫でてくれる凛さん。.........ふぁ.........。なんだか、すごく落ち着いて.........。


.........はっ。本来の目的を忘れるところだった。あまりにも凛さんが普通に心配してくれて、おでこをさすってくれたから。


「あ、あの、凛さん。あの.........聞きたいことがあるんですけど」

「私も、結人に話があって。.........とりあえず入って」

「し、失礼します」

「そこの、クッション使っていいよ」


入ると、凛さんの部屋は、本棚があるのは僕と同じだけれど、やっぱり凛さんも女の子だから、可愛いクッションとかぬいぐるみとかが結構ある。


「あ、あの。あんまり見ないで。は、恥ずかしいから」

「あ、ごめんなさい」

「まぁ、良いけれど。……それで、どうしたの?」

「え、あ、その」


姿勢を何故か、ピンっとしてしまう。


「気のせいだったら、良いんですけれど。凛さん、最近浮かない顔をしていることが多いなって」

「.........やっぱり結人には、ばれちゃってたか。結構頑張ってたんだけれど」

「え?」

「私もね、そのことについて、結人に話そうと思っていたの」


そう言って凛さんは話出した。








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