第6話 名誉の傷と兄さん

「おい、結人どうしたお前」

「ん?いや何でもないよ」

「いや、どう見ても何かあったでしょ」

「そんな事ないってー」


手紙がうれしすぎて僕は朝から妙なテンションになっていた。


だって、だってさぁ。


何だかちょっとだけ二人に認められた気がするんだ。こんなうれしい事ってそうそうないと思う。


「やっぱり何かあったんだよなぁ」


まぁ、そんなこんなで一日の授業が終わり下校になる。


あの二人帰るのが早いから早めに学校でなきゃな。


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「お姉ちゃん、帰ろ」

「うん、帰ろっか明音」


先に昇降口で待っていたお姉ちゃんと一緒に帰る。


.........はぁ、このちらちらこっちを見てくる男子の視線が私は嫌だ。とっても嫌いだ。


昨日だって、あのクソ男たちがお姉ちゃんに勝手に触ろうとしたし。あの無神経さ軽薄さ、ほんとに腹が立ってしょうがない。


「帰ったら、一緒にお菓子だべよっか」

「うん」


そんな私の雰囲気に気付いたのか、お姉ちゃんが優しい声で私に声をかけてくる。


「ねぇ、お姉ちゃん」

「ん?なに?」

「.........なんのお菓子食べるの?」


私は言おうと思っていたことをグッと飲み込み違う事を話す。


「んー。何食べよっか。クッキーとか作る?」

「それ時間かからない?それにお姉ちゃん料理できないじゃん」

「出来るもん。ちゃんとレシピ通りに作れば」

「レシピ通りに作って前失敗してたじゃない」

「人は成長するものよ」

「ふぅーん、そっか、そっか」

「むぅー、明音?」

「ふふっ、ごめん。お姉ちゃん」


お姉ちゃんをからかいながら楽しく帰宅する。が


「ねぇ、新條凛さん、明音さん俺たちと遊ぼうよ」

「ちっ.........」

「はぁ.........」


昨日の気持ち悪い二人。見ていて吐き気がする。


「昨日言いましたよね。私はあなたたちを視界に入れたくないし、二度と近づきたくないって」

「ストーカーですか。気持ち悪い。学校に通報しますけど」


昨日、散々に言ってあげたんだけどなんで分からないかなぁ。


「はぁ、その言い方がむかつくんだけど」


そう言って、不機嫌な面をして背が高いほうの男子がこっちに近づいてくる。


「これなーんだ」


持っていたのは、ハサミ。そうして強引に私の髪を掴む。


「明音!」


お姉ちゃんの声が聞こえる。もう、だから本当に男は嫌いなんだ。いいよ別に切りたければ切ればいいよ。


私はそっと.......目を閉じた。


.......。


「っ.......。いったいなぁ」

「……え?」


目の前から、知っている声がする。


そこにいたのは....夏から私たちの家族となった、義理の兄だった。


ぽたぽたと血が流れ、地面を赤く染める。義理の兄は痛そうに少しだけ顔をゆがめる。


「え?あ、ち、ち、違うんんだ」

「おい、脅すだけっていう約束だろ」


男たちが焦ったような声を出す。そして、怯えたように男たちがその場から走って逃げて行った。


「はぁ、間に合った。よかったぁ」

「……どうして」

「ん?どうしてって……家族だから。それに、母さんと一緒のきれいな髪だし、何より大事にしているでしょ。なら当たり前のことだよ」

「っ…」


そう言って、安心した顔をするが、傷が少し痛むんだろう顔を一瞬だけ歪めたが私たちに心配をかけないようにするためか、すぐに笑った。


「大丈夫ですか?暴力とか振られてない?」

「……うん。大丈夫。ありがと」

「ありがと」


すると、何がうれしかったのか笑顔になり「じゃあ、また」と言って先に家に帰ってしまう。


「お姉ちゃん、大丈夫?」

「私は大丈夫だけど....」

「……どう思う?お姉ちゃん」


私は正直分からなかった。


「ごめん。私は、まだ分からない」

「そっか、私も」


だから………


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っくぅ。いたっ。すごい痛い。心配かけたくなかったのと、二人の前で少しかっこつけてしまった手前痛がることもなんだか憚られるような気がして。


まぁ、ハサミで少し深く切れちゃっただけなんだけど。


まぁ、二人に怪我がなくて良かったし、二人に感謝された代償ならかなり安いものだ。


....でも、痛い事には変わりないし、早めに消毒しちゃおう。破傷風とかなってたら、おしまいだな....ははっ。


まぁ、うん。気にしたって何にもないし、はやく帰ろ。


家に帰り、最近の恒例となった「ただいま」の挨拶。これが僕の最近の楽しみの一つだ。


「お帰り、結人君」

「ただいま、母さん」

「あれ?大丈夫?手怪我してるじゃない」

「えっと…あはは、ドジしてころんじゃて。石で少し切っちゃったみたい。」


二人に何かあった事は言わない方がいい気がした。二人に何かあったとなると母さんはとっても心配するし、何より二人が心配をかけたくないと思っているだろうから。


消毒して、絆創膏を貼り、心配している母さんに大丈夫だよと声をかけてリビングをでる。


二人が帰ってきたとき、僕がリビングにいると心配するだろうから。


痛みを紛らわすため、携帯ゲームを起動してプレイし、二時間くらい経ち、夕食の時間。


二人から、ちらっと視線を送られたが僕は笑顔で返すとびくっとして、食事に戻る。


それを母さんが穏やかな笑顔で見守るという微笑ましい時間が流れ、お風呂に入って、寝る時間になるまで本を読んでいた時、とんとんっとふいにドアをノックする音が聞こえる。


誰かな?.......もしかしたらばれて母さんが謝りに来たとか?それはイヤだなぁ。なんか。


そうしてドアを開けると、僕は固まってしまった。


いたのは、明音ちゃんと凛さんだったから。


「.......あっ。とりあえず中入って」


なんとか再起できたので、二人を中に入れる。


「.......うん」

「お邪魔します」

「えっと.......あ、ごめんね。座るとこなくて」


うわぁ.......なんか新鮮。


うっ。なんだか緊張で嗚咽が。


「大丈夫?」

「やっぱり、帰った方がいい?」

「ごめんね。大丈夫だから、ちょっと緊張で嗚咽が走っちゃっただけだから」

「……大丈夫?」


それはそれで心配と明音ちゃんが不安そうな顔でこっちを見てくる。


「手、見せて」

「え、あ、大丈夫だよ。見て、この通り」


そう言ってブンブン手を回す。


「いいから、見せて」

「……はい」


少し脅されるように凛さんに言われて、手を見せる。絆創膏一枚じゃ少しだけ隠れてなくて、お粗末に見える。


それを見て、少し呆れた顔をして凛さんはガーゼやら包帯を巻いてくれる。


「……これで大丈夫?痛いところない?」

「だいじょうぶです。ありがとう」

「……うん」


居心地悪そうに、そっぽを向く凛さん。


.......かわいい。


「他に、ケガしているところはない?」

「ないよ、ありがとう」


明音ちゃんは責任を感じているんだろう。僕の事をたくさん心配している。


「大丈夫だよ、ありがとう。僕は二人が無事ならそれでいいんだから」

「っ.......」

「っ、そ、そうですか」


二人して、本棚の方に顔を向けてしまう。


え?僕なんか変な事言っちゃった?.......それより二人とも横顔がとてもきれいで見とれてしまう。


うん、やっぱり美人さんだな、二人とも。


「じゃ、じゃあ。また明日」

「……また、明日。……おやすみ兄さん」

「えっ―。……!」


そう言って二人はそれぞれ部屋に戻ってしまう。


……今夜は寝れそうにないや。




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