第5話 好きなもの
あの夜から二週間ほどたち、二人との進展はあまりなかった。
唯一あったとすれば僕の母のお墓参りだった。
あの二人と、冴香さんが線香をあげてどんなことを思って合掌したかは分からないけど、熱心にしていたことから、何か思うことがあったんだと思う。
僕はいつも通り見守っててねとだけ伝えた。
それから、何もなく学校が始まったのだが.....
「おい、結人。今日来た転入生の二人すげー可愛いらしいぞ」
「そうだね」
隣でやかましく僕の読書を邪魔してくるのは中学に入ってからの付き合いの
家庭科の時間余った材料でクッキーを作ったら、こいつが勝手に食ったことから話すようになった。
物語風にいうならば、ひょんなことから話すようになった友達だ。
.....仲良くなるためにはやっぱり胃袋から掴みに行くのが良いのかな
「帰り見に行こうぜ」
「やだよ、めんどくさい。それに夜ご飯作らなきゃだし」
「結人の飯久しぶりに食べたいな」
「ご飯代出したら作らないこともない」
「じゃあ、来月のお小遣いそれに使おっかな」
「まぁ、別にいいけど」
「なんだぁ?今日は冷たいな。君が今日ツンな日だったらそれはツンデレ記念日なんてな」
「うるさいな」
そんなこんなで、下校になり結局しつこく頼まれ明音ちゃんと凛さんの事を見にいくことになった。
家族だからいつでも会えるのに.....まぁ相手にされないし嫌われているけど。でも大丈夫なのかなこんなに注目されて。二人とも、男嫌いなのに.....
そっと見に行くと案の定男子に絡まれている二人を見つけた。多分一緒に下校しようと昇降口で待っていたところににあの人達が来たんだと思う。
あれは…体育会系の自分の顔や容姿に自信満々の人たちだ。ああやって片っ端から可愛い女の子に声をかけているらしいし。
遠目に見ている限り、無視して帰っている。こういう事が多いのか二人はかなり慣れているんだと思う。
でも、体育会系の人達も早々に引く気配はない。
少しずつ近づいていき、何とか声が聞こえるところまで来た。
「無視とかひどくない?」
「少しだけでもいいから話そうぜ?」
その中のサッカー部キャプテンの斎藤?が凛さんに触ろうとした瞬間明音ちゃんの大きな声が響く。
「その薄汚ない手でお姉ちゃんに触らないで!」
持っていたバックで腕を叩いて、離れさせる。
「まぁまぁ、そう怒らないでさでさ、仲良くしようぜ」
と言って、何を思ったのかもう一人の男あれは…テニス部の西山?が気安く今度は明音ちゃんの手を取ろとするが、凛さんが止める。
「触らないで、気持ち悪い。二度と近づかないでください。視界にあなたたちを入れたくない。不快」
「汚い!二度と近づかないで。目障り。このブサイク!」
「は?何それ」
二人はその場から走って去る。こういう事が結構あると言っても相手は大嫌いな、拒絶反応を示す男で相当怖かったんだろうな。
男たちのほう、主に西山と斎藤を見ると凛さんと明音ちゃんが走って行った方を見て露骨に不機嫌なオーラを出している。ご機嫌斜めだ。
「あいつら少し調子乗ってるな。少し可愛いからってさ」
「そうだな。少し...」
「ああ、そうだな」
調子のっているのは君たちだと思うんだけど…。
用事できたし、早く帰ろう。
「ごめん育人、用事ができた先帰る」
「え、あ、うん。じゃあね」
「うん、また」
僕は急いで家に帰り、母さんに二人の好きなものを聞く。
「ただいま、母さん。聞きたいことがあるんだけど」
「お帰り結人君。何かな?」
「えっと、二人の好きな食べ物聞きたいんだけど」
「え?うーん。明音はハンバーグが好きかな。あの子意外とお肉が好きね。前作った時もおいしそうに食べてくれて」
そう母さんが嬉しそうに言う。
「凛は桃とかかな。フルーツ系はよく食べてて特に桃のお菓子とかよく買ってるね」
桃かぁ。ゼリーとか?ちょうど前に使った缶詰残っていたし。うーん、固まるかな
「母さんもう買い物行った?」
今日は学校初日だから帰るのが早かったけど、もう行っちゃたかな?
「まだ行ってないよ」
「じゃあ、ちょっと行ってくる」
「え、大丈夫だよ。私がやるよ?」
「今日は僕が作りたい気分なんだ」
「そっか、じゃあお願いします」
「うん!行ってきます」
「行ってらっしゃい」
あー、なんかいいな。こうやって行ってきますって言って行ってらっしゃいって言われるの。
すごく新鮮だし、なんだか安心する。
そして、ぱぱっと材料を買ってき料理を始める
「ねぇ、結人君。手伝うことない?」
「えっと....じゃあ、桃のゼリーの方お願いしてもいいですか」
「うん、分かったよ。....やっぱり結人君はモテると思うんだけどな」
「そんなことないですよ」
「ふふっそっか」
「あと、僕が作ったって言わないでください」
「うーん.....分かった」
多分二人の雰囲気から悟ったんだと思う。流石母さんだ。
二人で作ったから早めに終えることができて、僕は一旦部屋に戻り日記に二人の好きなものを書く
この日記の名称は題して「姉妹と仲良くなるための僕の、僕による、僕のためのノート」だ。
…うん。分かってるよ。まんまだし、頭悪そうだって。
それにやってることは犯罪チックだしね。でも少しでも仲良くなるためには何かしらに残しておいた方が忘れないし、役立つかもしれないから。
二人の好きなものを書いて、そっとノートを閉じて引き出しにしまい夜ご飯になるまで読書をして待つ。
…そしてついに夜ご飯の時が来た。いつも緊張するんだよな。僕が作った時。
「今日はハンバーグなんだ」
「そうだよ」
いつも通り僕はのけ者だけど、明音ちゃんが声を少し弾ませて言っているからうれしいんだと思う。
「あと、冷蔵庫にゼリー冷やしてあるから食べていいよ」
「やった」
「…♪」
ふぅ、良かった。喜んでもらえているみたい。
和やかに.....僕抜きだけど、嬉しそうに笑ってもらえてよかった。
残りの心配は.............。
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結人君がリビングを出て行ったあと、桃のゼリーを食べている、明音と凛に話をする。
「その桃のゼリーおいしい?」
「うん、おいしいよ」
「おいしい」
「それ、結人君が作ったんだよ、ハンバーグも」
「……」
「.............」
二人は複雑そうな顔をする。こんな顔をさせるようにしてしまった私が不甲斐なくて少し胸が痛い。
「ちゃんとおいしいって伝えた方がいいと思うな。お母さんは。多分結人君心配していたんだと思う」
「でも…。」
「だって......」
「お母さんはお風呂入ってくるね」
「.............」
「.............」
ごめんね、二人とも。
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次の日の朝、ドアを開くと二枚の小さいメモ用紙が落ちてた。
なんだろう?裏を見ると.........
『ハンバーグおいしかった。ありがと.........明音』
『桃のゼリーありがとう.........凛』
.................
「ありがとう、明音ちゃん、凛さん」
短い文だったけど、僕には充分だった。
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