第25話 誕生日

「昨日です。結人の誕生日。でも、あんまり責めないですください。あの子多分恥ずかしいんだと思います。それに「自分から言うの少し恥ずかしいし、周りに祝ってもらったことないから、どうしていいか分からなくなる。僕に使うなら、明音ちゃんや凛さんに使ってあげて。今年のプレゼントはそれでいいや」って言ってたから」


兄さん......。


「結人君、絶対に私が祝ってあげるから」


お母さんがメラメラと闘志を燃やしている。


ちらっとお姉ちゃんのほうを見ると目が合い、私たちはクスッと笑う。そしてお母さんもこっちを見てクスッと笑う。


「明音、凛、良い事一緒にしよっか」


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学校が始まって、もう五日が過ぎようとしている。そう、今日は金曜日。


んーっと体を伸ばすと


「ちょ、おいやめろ」

「いいじゃない、ちょっとくらい」


委員長こと、篠崎志保に腹をくすぐられる。


「それで、どうしたんだ?篠崎さん。何か用事があるのではなくて?」


今は放課後。なぜだか、今日はちょっと遅く帰ってきてと母さんに言われて教室に残っていた。


「どうしてそう思ったの?」

「篠崎さんは部活とかあるから、わざわざ部活に行かずに話しかけて来るってことは何か用事があるんじゃないかって」

「やっぱり、新條君。鋭いね」

「まぁね」

「ふふっ。まぁ、それは置いといて」


さらっと流された。


「聞きたいことは......あの失礼だけどいい?」

「内容が相当失礼なら、僕は篠崎さんと一生仲良くしない自信がある」

「うっ......。じゃあ、いい」


聞きたいことは、何となくわかる。多分、なんで僕に母親がいるとかそんな事だろ

う。

明音ちゃんたちの事とかもあるし、黙っていた方がいいかなと思い、こんな言い方しちゃった。


ごめん、篠崎さん。


「じゃあ、またね」

「うん、じゃあまた。……言えるようになったら言うから。志保」

「だ、だから、名前で呼ぶな!あ、あと、これ」

「なに?」


ぽんっと、きれいにラッピングされた箱を渡される。


「誕生日プレゼント。それじゃ」


そう言って、慌ただしく教室を出ていく篠崎さん。


ありがとね。篠崎さん。……そう言うところで男子が勘違いするんだよな。僕じゃなきゃ危ないぞ。


ちらっと、時計を見る。


いい感じに時間も過ぎたし、帰るか。




誰も帰ってないのかな?何だろう、省エネで電気消してるのかな?


そう思いつつ、暗いリビングのドアを開けると


「結人君。誕生日おめでとう!!」

「おめでとう」

「おめでとう」


一斉にクラッカーがなる。


誕生日?......まさか、父さん言ったのか。


「あ、ありがとうございます」

「結人君。私たちにも祝わせてくれないかな。結人君は、私たちの事知ろうとしてくれていたのに、母さんたちは誕生日も知らなかったのが悔しくて情けなくて。今日は絶対に祝ってあげようよ思って」

「私たちに、祝われるの嫌?」


不安な顔をして、こっちを見てくる明音ちゃん。


「そんな事ないです!ただ、その。……なんだか、恥ずかしくて」

「じゃあ、毎年。祝って定着させていこうね。さぁ、座って結人君」


席に移動させられる。周りを見ると、結人君誕生日おめでとうって書いてあったり、輪飾りがあったりと綺麗だ。


目の前には、母さんが腕を振るったのか豪華な料理が並べられている。


なんだか、居心地が悪くてそわそわしてしまうけれど、それが嫌じゃなくて。


「結人君。前カレー好きだって言ってたでしょ?結構いいもの使って作ってみたんだ―」


前、そんな事を言った。……覚えててくれたんだ。


カレーの上には、きれいな目玉焼きが乗っていて。


「母さん。ありがとう。凛さんもありがとうございます。作ってくれたんですよね」

「......うん」


こくんと頷き、ふふっと小さく笑う。


多分、明音ちゃんも料理を手伝ったんだろう。少し指を怪我していた。


「僕のために、ありがとね。明音ちゃん」

「う、うん」

「じゃあ、食べよっか。いただきます!」

「「いただきます」」



そのあと、一緒に、ご飯を食べた。僕もそこそこ会話に混ざれて、いろいろ質問とかされて、四苦八苦しながらも答えた。


ケーキまで、用意されていて、凛さんの鼻にクリームがついていて可愛かったりと本当に楽しめた。



「あの、結人君」

「なに?母さん」

「最後にプレゼントがあります。私からは、これ」

「あ、これって」


貰ったのは、チェック柄のマフラーだ。


「まだまだ、寒いし、結人君に似合うかなって」

「ありがとうございます。大事にします」


どうしよう。なんだかもったいなくて使えない。そして、おずおずと明音ちゃんが前に出てきて、


「あの……兄さん。ごめんなさい。兄さんの好きなものが分からなくて、プレゼント準備できなかった。」

「全然いいよ。僕は祝ってくれるだけでもすごくうれしいんだから」

「それじゃ、だめなの。だから、明日、その……一緒に買いに行きませんか?」

「え、あ、う、うん」


あ、明音ちゃんと買い物!?それだけでもう十分プレゼントだよ。


そして、凛さんからは


「じゃあ、私は……はい」


本を渡された。表紙を見ると僕が前から買いたかった本だ。もしかして、父さんとかから聞いたのかな?


中を開こうとすると、


「だめ…まだ、開かないで。後で開いて」


そっと、頬を染め俯きがちに閉じられる。何があるんだろう。


興味があるけれど、今は......ちゃんと言わなきゃいけない事があるな。


「母さん、明音ちゃん。凛さん。本当にありがとうございます。こんな誕生日初めてでそわそわしたり、ドキドキしたり、楽しかったり、嬉しかったり。最高の誕生日をありがとうございます」


明音ちゃん、凛さん、母さんも、嬉しそうに笑っていて。


でも......それ以上に僕は笑顔だった自信があった。




余韻に浸りながら、お風呂に入り、明日の明音ちゃんとの買い物にわくわくしながら、自分の部屋に入り、ベットに座る。


そう言えば、あとで読んでって言われたけど、もういいよね。


そっと本を開くと表側にきれいな花柄の模様があって、裏に手書きで


『いつも、ありがとう。これからもよろしくお願いします』


こう書いてあって。


「……あぁ、凛さんから貰ったものなのに」


いつの間にかポタポタと本に僕の涙が滲んでいて。嬉しくて、涙が拭えなくてずっと泣いていた。









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