第73話
「えっとさ、志保はなんでそんなに二人ににらみを利かせているの?」
「結人君はお静かに」
「…。…はい」
僕の腕に体を密着させ、志保は二人をじっと見ている。
見られている側の二人とはもちろん、凛さんと明音ちゃんだ。その二人は何故か勝ち誇ったような笑みを浮かべている。
なぜこんなことになったかと言うと、僕がいない間に三人の間で何か話し合いが行われて、帰ってきたらこうなった。
……だから、僕もなぜこんなことになったのかが分かっていない。
「志保、とりあえず離れて。少しだけ恥ずかしい」
「なんで?」
「その…。…当たってるから」
「え、あ、そ、その。ごめん」
興奮していたからか、胸を当てていることに気付いてなかったみたい。
それより、なんで、ホントにこうなったのかが分からないため首を傾げるしかない。最近、三人だけで話合いこんなことになっていることが多くて、仲間外れにされている感覚があってちょっとだけ悲しいため、今日こそは僕も混ぜてもらいたい。
そこで、僕は考えた。明音ちゃんか凛さんに条件を出せば教えてもらえるんじゃないかと。
凛さんと志保が何か話している時にこそっと明音ちゃんに耳打ちする。
「明音ちゃん、明音ちゃん」
「ん?何お兄ちゃん」
こっちに耳を寄せてきて、僕に合わせて小さめな声で話す。
「さっき、本当に何の話をしていたの?」
「それは、ひみつかな」
そう来ると思った。なので
「そこを何とか教えて。明音ちゃんがして欲しい事なんでもするから」
「……!!ほんと?」
多分、ハンバーグを作って欲しいとか、女子だしアクセサリーとか服とか欲しいのかな。高級ブランドものとかを要求されても無理だけれど。それ以外なら大抵大丈夫だ。
「ほんとに、なんでも?」
「うん」
「絶対だからね」
「うん」
「じゃあ。……さ」
頬に赤みが増して、少しだけ恥ずかしそうな顔をしているような気がするけれど、なにを言われるんだろう。
「私と、今週、一緒に出掛けよ?お姉ちゃんには内緒で」
「え?そんなのでいいの?」
「うん、いいよ」
「分かった。それで、何の話をしてたの?」
「それは……」
明音ちゃんはまだ、二人で何か言いあっているのを横目で確認して耳打ちしてくる。
「今日、私たち、一緒に寝るでしょ?」
「う、うん。そうだね」
「それを、篠崎さんに行ったら、こうなったってだけだよ」
「え、ん?それだけ?」
「うん、それだけ」
なんでそれを言いたくなかったのか分からないけれど、志保の気持ちは何となく分かる。多分、僕と同じで仲間外れは嫌なんだろうな。何となく納得した。
「あ、ちょ、ちょっと待って」
服の袖を掴まれ強引に僕の耳に口を近づける。
「その時はさ、私のこと明音って呼んで」
「う、うん。分かった」
明音呼びか。なんだか緊張するな。
「だから、二人はずるいと思うんです」
「それは、しょうがないわ。だって、私たち家族でもあるんだから」
まだ、何か言いあっている二人に、特に志保に言う事がある。
「志保、そんなに嫌なら、今日家に止まればいいんじゃないかな。明日学校ないし」
「え!?」
「お兄ちゃん!?」
「結人!?」
さっきまで話し合っていた二人がこっちに一斉に振り向き、それぞれ違う目を向ける。あと、明音ちゃんからも。
二人からは、なんだか非難のような視線が突き刺さる。
「ほんとに良いの?私、絶対行くからね」
「僕は良いけれど」
なんだか、他二人が若干不満そうな顔でこちらを、主に僕を見ているけれど、凛さんが観念したように、嘆息し「いいわ」と言い、明音ちゃんは「しょうがないね」と言って承諾してくれた。
あとは、母さんの許可を取るだけだけれど、多分、快くオッケーしてくれると思うし。
「結人の…ばか」
「お兄ちゃんの、あほ。……でも……ふふっ。楽しみにしてるね」
何か二人が言った気がするけれど、友達が家に来てお泊りだなんて初めてで、少々浮かれていた僕の耳には届かなかった。
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