第3話 これからのこと。決意。

「じゃあ、いただきます」

「「いただきます」」


どうしよう、なんだかお通夜みたいな空気が漂っている。


何だか高そうなレストランに来たのだが......


どうにかこうにか父さんと冴香さんが頑張っているが、姉妹が父さんと特に僕を警戒というか睨んでいるためは会話は弾もうにも弾まない。


それを見かねたのか、冴香さんが


「こぉーら、二人ともむくれていないで」

「お母さん......」

「……」


二人は困ったような、何とも言えない顔をして押し黙る


それからも、空気は変わらず静かな食事になった。


家に帰り、先に姉妹にお風呂に入ってもらい、自室でこれからの事を考えるがこれまた全く思い浮かばず、お風呂が空いたので入ってまた考えるも当然思い浮かばない。


気分を変えるため、近くの公園に行こうと玄関の扉を開ける。


「あ、結人君、どこ行くの?」

「えっと....ちょっと公園に」

「ちょっと、待っててくれる?」

「…分かりました」


それから、数分して冴香さんがやってくる。


「じゃあ、行こっか」

「はい」


外に出て、涼しい風にあたりながらゆっくり歩く。


何か話そうと思ったけど、冴香さんがぼぉーっと何かを考えているように見えたから僕は話しかけるのをやめ、ただひたすら歩き目的地に着く。


「すいません、トイレに行ってきます」

「あ、うん。分かったよ」


トイレに行きたかったのは、ホントだけどれど何か話すためについてきたんだと思うし、飲み物くらいは買っておいてあげたい。


トイレを済ませ、適当にお茶を買ってベンチに座っている冴香さんのところに行く。


「すいません、待たせちゃって。あと、これ」

「え?いいの?」

「はい」

「うれしい、ありがとうね。結人君」

「は、はい」


冴香さんに微笑まれて一瞬ドキッとしてしまう。


「ここに座って、結人君」

「はい」


ゆっくり腰を下ろし、


そして、数十分経っただろうか。


「結人君。……頼みがあるんだ」

「......はい」

「言う前に少しだけ、話させてくれないかな。嫌な気持ちになるかもしれない。自分の息子にする話じゃ絶対にない事だけど。......こんな言い方、私ずるいね。断れないもの。本当に嫌なら、嫌って言っていいからね。」


そう諭すように言う。


なんとなく、重い話になることは予想がついていたし、冴香さんがついてくるって言った時点で覚悟はできていた。


「......話してください」


冴香さんは、一つ大きく息を吐いた。


「..........私のね元夫は......暴力をする人だったの。簡単にいうとDVだね」

「......」

「結婚してから、あの子たち二人を生んでからかな。DVが始まったのは」


冴香さんはペットボトルの蓋を開けようとして、そっと閉める。


自分を落ち着かせるように、ゆっくり冷静に言葉を紡いでいく。


「日に日にエスカレ―トしていった。私は幼い二人を守るために必死に頑張って自分が暴力を受け続けた。いつの間にか、暴力を振られることが当たり前になってた。いつの間にかそれが普通になってしまったから、ほとんど何も感じなくなっていたの。私が悪いって。私のせいだって勝手に思うようになってた。最初のころは暴力なんて振らなかったからいつか..........なんて馬鹿みたいな考えもあったのかもしれない。私は仕事もしていなかったから、この子たちを養うことができない。あの子たちが私を支えてくれていなきゃ私は死んじゃってたかもね」


そんな重い言葉を言っていても二人の事を思い出しているのか、口元が少し緩んでいる。


「六年くらい経った頃、凛が小学三年生になったときだね。私の友達に、私が暴力を受けているのがばれて、そこからだね。元夫の実家に行った時だった。あの人は実家に帰るをすごく嫌っていたけど、五年も行ってなかったから親にそろそろ帰ってこいって言われてたのかもね。その家は厳格で曲がったことや倫理に反したことを嫌う家でね。だからかな、あの人がああやって暴力をするようになったのは」


暗い目で、心なしか曇っている空を見つめる。小さい星が鈍い光を放っていた。


「私の友達は、証拠とか、私が今まで踏みだそうと思ってできなかったことをやってくれた。相手側の家に証拠を見せた。それからは、あの人はお義父さんにぼこぼこにされてた。私以上にひどいあざを作って」


無機質な目で遠くを見つめている。


「それから、慰謝料もその他もろもろ払ってもらって離婚して、仕事にもつけた。でも私は男の人が苦手になって......違うね苦手っていうレベルじゃなかったね。男性恐怖症になっていたの。ごめんね。実をいうと、まだ少し結人君にも慣れていなくて」


 そう言って、力なく握りこぶしを作っていた手が少し震えていた。


「それで、昔から仲の良かった親友の伝手で私は心理カウンセラーに通ってあなたのお父さん。敬人さんに会った」


父さんがそっち関係の仕事に就いている。目に光が差し込んだように見えたのは気のせいじゃないと思う。


「まぁ、それは今はいいね」


と言ってくすっとさっきの思い空気を払うように笑ってくれて僕もつられて笑ってしまう。良かったね、父さん。


「あの子たちも......私と同じように、いや、私以上に男の人が嫌いになってしまった。苦手になってしまった。拒絶してしましまうようになった。私が謝る度にあの子たちは殻に閉じこもってしまうから」


申し訳なそうにして、俯いてしまった。これはどちらに対してもだろう。


「私のせいだし、私が本当は解決する問題。それを他の人に、ましてや自分の息子に頼むことではないけれど」


悔しそうにペットボトルをぎゅっと握り、形が変形してクシャっと音を立てた。こんな時僕はなんて声をかけていいか分からない。


「あの子たちと仲良くしてくれませんか。家族の温かみも家庭っていうものを……普通の家族になってあげてくれませんか」


顔を歪めて、もう涙が決壊しかけていた。悲痛な叫びに見えた。自分の不甲斐なさを感じて、どうしようもない感情が渦巻いているんだと思う。


だから僕は……


「お願いなんてしないでください。家族なんですから。あの子たち二人、明音ちゃんと凛さん。二人と仲良くするのは当たり前です。僕嬉しかったんですよ。姉妹ができたの。僕に初めてできた姉妹。それにのためですから、僕は喜んであの子たち二人と仲良くなります。と言うかならせてください。絶対に!」


口元に笑みを作り、母さんの不安を少しでも振り払うように、素直に思ったことを感じた事を口に出す。


「それに母さんのせいじゃない。悪いのはその男で母さんが一生懸命頑張っていたから二人も頑張れたんだと思うんです。支えになっていたのは母さんも同じだよ」


僕は精一杯冴香さんに届くように話す


「まだ、お互い緊張や遠慮があるし、さぐりさぐりだけれど、家族だから助け合って、笑いあって、悲しんで、喜びあっていきたいって僕は思っています。……って僕なんか上から目線みたいですね。すいません」


今度は僕がははっと笑って、冴香さんもつられる形で笑う。


「......結人君、敬人さんに似ているよ」


母さんは嬉しそうに笑っていて、目にはうっすらと涙がたまっていた。


「これから、改めてよろしくお願いします。母さん」

「よろしくね、結人君」


















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