第87話 延命治療

 手伝うからにはしっかりしたいので私はいろんな人に聞いて、坂下先輩の情報をたくさん集めた。


 例えば、先輩はショートの髪の子が好きだったり、甘いもの中でもショートケーキなどが好きだったりと色々聞いたし、先輩は意外と抜けていたりと告白にはあんまり関係のないような情報まで仕入れたりもした。


 でも、やっぱり大人気の坂下先輩である。


 聞いて回った女子が見栄をはり、聞いた人の特徴をそのまま話す人もいたり、坂下先輩が自分のことが好きだと勘違いしている子もいて、情報があいまいだった。



 なので私は直接先輩に聞くため、機会を伺い話を直接聞くことにした。


「坂下先輩」

「何かな?」


 と振り向き笑顔を振りまく先輩。


 普通の女子ならこの笑顔とすまいるでおちていただろうが、私は先輩のことが好きでも何でもないし好みでもなかったので耐えることができた。


 「先輩って、好きな人とかいるんですか?」

 「うーん、いないかな」 

 「じゃあ、好きな髪形とかってありますか?」

 「ショートの子が好きかな」

 「じゃあ、こんな性格の子が好きだなっていうのはありますか?」

 「優しい人がいいかな」

 「背は小さいほうがいいですか」

 「背はあんまり気にしてないかも」


 とこんな風に事務的に質問し


「先輩って年下の子って大丈夫な人ですか」

「僕は年下でも年上でも僕のことを好きでいてくれる人なら年齢は関係ないかな」

「ありがとうございます。坂下先輩」


 と礼を言い頭を下げてそこから立ち去ろうとすると


「あのさ…」

「なんですか?」

「い、いや何でもないよ」

「?そうですか」



「それで、先輩はショートな子が好きで年下の子も大丈夫だって言ってたよ」

「そうなんだぁ。よかった」


 と嬉しそうに安堵する由美。

 

「ありがとね。聞いてきてくれて」

「全然大丈夫だよ」

「ほんとにありがと、もう志保には感謝してもしきれないよぉ」


 よかった、喜んでくれて。

  

 私が何でもかんでも手伝ってしまうのは手伝った後のこのありがとうという言葉を聞くためかもしれない。


 そうして、安堵してから一週間後。


 私は、いつものように先生の手伝いをしてクラスのみんなと話したりして、由美の件を忘れそうな頃だった。


 私が下駄箱で靴を履き替えようとしていると、


「篠崎さんだよね?」

「えっと、はい。そうですけど」


 と言って振り返りそこにいたのは


「どうしたんですか、坂下先輩」

「えっと、その、あの」

 

 と頬を掻き恥ずかしそうにしている先輩。

 

 私はすごく嫌な気配を感じ取った。


「あのね、篠崎さん。俺君のことが…」

「先輩、ちょっと待ってください。その先を言わないでください」

「…どうして?」

「それは…」


 と頭に浮かんだのは嬉しそうにしていた由美の顔である。


 あの嬉しそうな笑顔を曇らせたくない一心で私は逃げた。


「一週間待ってもらえますか」


 いずれ首を絞めるのをわかっている延命だとわかっていても。







 





 

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