第29話 祝いとお願い事。
そわそわ。そわそわ。
授業を聞いていても、何も耳に入ってこない。
三月中旬。凛さんの受験の結果発表日だ。
凛さんは大丈夫だと言っていたけれど、家族の誰かの大切な日となるとこうも緊張するんだとはじめて分かった。
家では、母さんが誕生日分も含めての料理を作っている。僕も、凛さんと明音ちゃんの分の誕生日プレゼントは買ってある。
結果を知りたい。絶対大丈夫だ、と思っていてもやっぱり不安なものは不安で。
早く、家に帰りたい。
...........こんな事思うようになったのも全部母さんたちがいるからだよな。去年までの僕はあの閑散とした家に早く帰りたいなんて思わなかったもんな。
ふぅ...........とほっこりしたのも束の間。すぐにそわそわしてしまう。
あぁ、もう。早く帰りたい。
帰りのショートホームルームが終わってすぐ、学校を飛び出す。
すると、僕と同じ気持ちの子がいた。
「あ、明音ちゃん」
「兄さんも?」
「どうしても気になっちゃって」
「だね。授業も身に入らなくて」
「ふふっ。私も」
「じゃあ、行こっか」
「うん」
二人で走り出す。
「あ、明音ちゃん」
「ん?何?」
「帰ったら、もう一度言うけれど誕生日おめでとう。凛さんの受験合格も大切だけれど、明音ちゃんの誕生日も大事だから」
「...........ありがと、兄さん」
走っているからか、分からないけれど頬が赤いような気がした。
家に着き、リビングに入ると
「ふふっ。お帰り」
「ただいま」
ウキウキな母さんがすごい量の料理を作っていた。それにどれもおいしそう。
母さんがこの感じと言う事は.........。
「お姉ちゃんは?」
「部屋にいるよ」
僕も今すぐ言いたいけれど、女の子の部屋にまではいけないもんな。しょうがないリビングで母さんの手伝いをするか。
凛さんに、「合格祝い楽しみにしてるね」って言われているし。
よっし。頑張るか。
「それでは、凛の合格祝いと、二人の誕生日を祝っておめでとー」
「おめでとう。凛さん。明音ちゃん」
「「ありがと」」
二人は照れながらも、嬉しそうに笑っていた。
それから、食べきれない量の料理をお母さんが作ってくれたからと一生懸命食べようとしている二人が愛おしかったり。
途中で父さんも帰ってきて、お祝い事だからと、母さんがお酒を飲むと意外にお酒に弱くて酔って凛さんの事を撫でまくって照れている凛さんが可愛かったりといろいろあった。
そして最後に二人にプレゼントを渡す。
「これは、私と敬人さんから」
「ありがと」
二人に渡されたのは、洋服だ。
「二人に似合うかなって思って」
「ありがと。大事に着るよ」
二人は大事そうに服を抱える。
次は、僕の番だな。
「じゃあ、僕からはこれを」
「中開けていい?」
「いいですよ」
中に入っていたのは、ペアのネックレスだ。
「わぁ.......きれい。ありがと。結人君」
「見て、これ、私たちの名前彫ってあるよ」
「ほんとだ」
二人はお互いにネックレスをつけて嬉しそうに笑ってくれている。
二人が喜んでくれてよかった。ちょっと高かったけれども買ってよかったなって思う。
何故ネックレスかと言うと、母さんと父さんが同じネックレスを持っていたのを見たのがきっかけだ。
後は.......。
「あの.........まだ、僕の気持ちが収まらないので、僕からもう一つお願いがあるんです」
「なに?」
二人は、こてっと首を傾げる。
「あの、一つだけ何でも僕に命令してください。できることならなんだってやります」
「え?」
僕が用意した答えはこれだった。
二人とは仲良くなったとはいえ、普段は僕に遠慮してしまうだろうから。
こんな時ぐらいしか二人の頼みを聞けないような気がして。勿論、普段助けてと言われたら全力で答えるけれど。
「じゃあ.........」
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