第30話 喜ばせるために

はぁ.........。


朝から、気が重い。


何故かというと、今日僕は、”フリー”だからだ。


そう、何もやらなくていい。


明音ちゃんたちから言われたことは、


「じゃあ、結人君は明日一日。お休みね」

「え?」


最初僕は、何を言われたのか分からなくて混乱してしまった。


「だから、兄さんは働きすぎなの。私たちの事とか、家事とか」

「そう、結人君は私たちに甘すぎるし、自分の事を疎かにしすぎだって前から思っていたの」

「だから、兄さんは明日一日お休み」

「でも.........」

「これは、私たちからの誕生日分のお願い」

「聞いてくれる?」


二人から、お願いされて断れるはずもないし、それがプレゼントだって言うんだったらしょうがない。


っと昨日は、どうにか咀嚼したけれどやっぱりなんだか落ち着かなくて。


今の時刻は、朝六時。


そぉーっと部屋を出て、リビングに出る。すると、


「お姉ちゃんは、お味噌汁お願い」

「わかった」


二人が、朝ごはんを作っているところだった。


良いなぁ、僕も一緒に混ざって作りたいなぁ。


「あ、兄さんおはよう」

「おはよう」

「結人君は、そこに座っていて」

「.........はい」


だよね。分かってた。……はぁ、なんだか落ち着かない。


「あと、ちょっとだから待ってて」

「はい」


ぼくがそわそわしているのが分かって、明音ちゃんがそう言ってくる。


それからも結局落ち着く事なく、そわそわしたまま明音ちゃんたちが朝ごはんを作り終え、みんなで一緒に食べる。


「結人君は今日、お休みだしどこか行くの?」

「うーん」


母さんに言われて、そう言えばどこか出かけるという案があったのを思い出した。

でもなぁ、僕あまり友達いないし、どこか行くと言っても図書館くらいなものだし。


どうしたものかな。





「ふぁーー」


部屋で、ベットの上でごろごろしながら本を読む。


結局外にはいかず、部屋に居ることにした。


「あの、兄さん」


とんとんと、ドアをノックされて明音ちゃんの声が聞こえる。


「どうしたの?」


ドアを開けると、エプロンを付けた明音ちゃんがいた


「あの、兄さんの好きなお菓子って何?」

「え?」

「いいから、今日はお休みの日でしょ」

「えっと.........桃のぜりー」

「それは、お姉ちゃんが好きだから言ったんでしょ?」


どうしてばれたんだろう。すると、明音ちゃんが嘆息して


「はぁ.........。私はね。兄さんの好きなお菓子が知りたいの。だから、教えて?」

「えっと.........」


そこまで言われたら考えてみよう。なんだろう。……そう言えば、最近、クッキーとか食べてないから食べたいかも。


「クッキーかな」

「そっか。じゃあ、またね」

「あ、うん」


扉がバタンと閉まり、てとてと歩く音が遠ざかっていく。


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もう、兄さんは私たちの事を考えすぎ。


兄さんの部屋からリビングに戻る。キッチンにはお姉ちゃんがいて。


「兄さんが好きなのは、クッキーだって」

「そっか。じゃあ、さっそく作っちゃおっか」

「お姉ちゃん作り方分かるの?」

「それは.........教えて?」

「よろしい」


兄さんはいつも私たちの好きなものを作ってくれているから、そのお返しにと思って。日々の感謝も込めて、さっそく作り始める。


別に、借りだ、とかは思っていない。.........家族だし。.........あぁ、もうなんでだろう。胸が痛いような。


「明音?次は?」

「え?あとはこの生地を型に入れて、焼くだけだよ」

「へぇー簡単だね」

「って言って失敗しないでね」


そう、クッキーの作り方は簡単だ。それは兄さんも分かっているはず。もしかしたら、兄さんは.........そうだとしたら、なんだか、もう!って気持ちになるような。


兄さんを驚かせるようなものを作ってみたい。


「クッキー作ってるの?私もほしいな」

「あ、お母さん。勿論、お母さんの分もあるよ」


あ、そうだ。


「お母さんあの.........兄さんを驚かせるようなことをしたいんだけど」

「うーん。そうね。結人君は、二人が作ってくれただけで、大喜びしそうだけれど。.........別に物だけじゃなくてもいいんじゃない?」

「というと?」

「.........」

「.........。それって、ほんと?」

「それ、私はできないよ」

「凛は、そうね。.........」

「それでほんとに喜んでくれるの?」


でも.........やるしかないかな。持っている情報も少ないし。




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