第9話 体育祭準備
「一年の新條明音です。よろしくお願いします」
滅多に僕が入らない会議室。各クラスの委員長やら、運営の人やらが集まっている。
その中に、明音ちゃんの姿が見える。
いつも通り凛としていて家族贔屓を取り除いてもきれいだと思う。大切にしているだろう、長くてきれいな黒髪。お辞儀をするときのきれいな所作。目元はキリっとしていて、母さんに褒められた時、その目が柔らかくなり年相応の顔になる時が可愛い。あと、兄さんって言われたときは…もうキュン死するんじゃないかってほど可愛い。
「ちょっと、なにだらしない顔しているのよ」
「ごめん、ちょっと寝不足なんです」
「寝不足であんな顔するなんて見たことも聞いたことも無いんだけど」
呆れた顔で小声でこっちを注意してくるのは、篠崎志保。運営にかかわることになった元凶だ。
今では感謝しかない。お礼しないとな。
「ありがと、志保」
若干志保の部分を強調して言うと、顔が赤くなり…
「は!?ちょ、何言ってるのよ!」
結構大きな声で言ってしまい、全員がこっちを向く。
「そこ、静かにしてください」
「あ、すみません」
志保が、すぐに謝る。
「やめてよ、急に名前で呼ぶの。なんか…びっくりするじゃん」
「静かに。あと少しで僕たちの番ですよ」
「……あとで雑務押し付けてやるからね」
「……すんませんでした」
素直に謝ると、ちょっとは気分がよくなったのかむすっとした顏を緩める。こういう結構ちょろいところも男の子的にはポイントが高いと思う。
「じゃあ、二年三組」
「はい、二年三組の篠崎志保です。よろしくお願いします。さっきはお騒がせしてすみません」
さっきの事はなかったように冷静に自己紹介をする。こういう切り替えの良さも彼女の魅力なんじゃないだろうか。
「同じく、二年三組新條結人です。よろしくお願いします。さっきはすみませんでした」
僕が終わった後も、順当に進んでいき、誰が何をするかまで決めたところで終わった。
僕ができるのは、放送の機材運びとか委員長の手伝いとかまぁ結局雑用をすることになった。
それから数日たち、体育祭前日。みんなそれぞれ頑張って仕事をしている。
勿論僕もしている。テントを張ったり機材を運んだり手伝いをした。
気になるのは、明音ちゃんだ。なんだか緊張、やらそわそわしているように見える。段々と体育祭に近づくにつれて。思えば凛さんも少しだけそわそわしている。
昨日は、家で二階に上がろうとしていた時転びそうになっていたし、その前はなんだか眠そうにしていたし。
球入れに使う球を運んでいるみたいだけど、どうにも心配だ。僕はそっと悪いと思いながらもついて行った。
すると、ちょっとぼぅっとしているのか僕には気づいていない......いや分かってて無視しているのかもしれないけどさ。
そして、突然階段でも何でもない小さな地面の窪みに足が突っかかり明音ちゃんが「あっ」と言い転びそうになる。
僕は迷わず、明音ちゃんが怪我をしないように何とか腕を掴みどうにか態勢を立て直すことができた。
やっぱり、ぼぉーっとしていたみたいだ。
「大丈夫?体調悪いなら保健室行く?」
「あ、ありがとう。……でも大丈夫」
「そ、そっか」
こうやって話すのは実に何日ぶりだろうか。今になって緊張してしまう。答えてくれるか分からないけど、聞かずにはいられない。
「ぼぉーっとしてたけど、何か考え事?」
「......」
「あ、ごめん。無神経だった。言わなくていいよ」
「......うん。でも大丈夫だから。ありがとう」
「じゃあ、また体育祭の準備がんばろっか」
「うん。……また」
「うん、またね。頑張って」
「……またね、結人さん」
「……え、あっ——」
明音ちゃんが逃げるように走って行ってしまう。結人さんか.........。兄さんから少し離れてしまったけど名前を呼んでもらえた。……よっし。
そんな可愛い後ろ姿を歩いて追いかけた。
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