第61話

  ん、んぅ、んー。


 目を開けると、昨日までの真っ白な天井ではなく、僕の部屋の天井が写っていた。


「そっか、昨日家に帰ってきたんだっけ」


 怪我してから約一か月半くらい病室にいたからか少しだけ違和感をおぼえてしまう。


 志保さんが病室にお見舞いに来た次の日複雑骨折の手術をして、曲がった骨をまっすぐにしてもらった。


 日常生活に支障が出なくなるまで二ヶ月から三ヶ月くらいかかるらしい。リハビリも含めたら半年くらいだそうだ。


 まぁ、受験までにはなんとかなるし、左腕だし。それに足の方はただの骨折だから二か月程度で多分済む。


 手術前、凛さん、明音ちゃんが母さんに引けを取らないくらい過保護になってたっけ。


 確か…


「お兄ちゃん、大丈夫?ずっと手、握っててあげる。何なら…抱きしめてあげるよ?と言うかその…抱きしめてあげたいな」

「大丈夫よ、明音。そう言う事は私がするから、違う事しなさい」

「っ…。お姉ちゃんこそ他の事すればいいじゃない」

「なら、私が結人君を抱きしめてあげる」

「「ずるいっ」」


 そう言って僕を抱きしめる母さんに続いて、凛さん、明音ちゃんも僕を抱きしめようとしてくれたりしたっけ。


 不謹慎だけれど、今となっては事故があったおかげでさらに親密になれたから結果オーライなのかな?…それは違うか。僕が怪我したことでみんなに迷惑が掛かるし何より心配をかけたくない。


 ふと、時間を見るといつも通り六時に起きていた。入院していても変わらなかった僕の生活習慣に少しだけ誇らしく思いながら、数秒かけてベットに手を掛け借りてきた車椅子を座りやすい位置にずらす。


 足だけなら松葉杖だけで事足りたんだけれどなぁ。如何せん僕の部屋が二階にあるから下に行くときかなりめんどくさい。誰かの手を借りなければ降りるのがつらいのだ。トイレは上にもあるからいいけれど。


 柔道とか習おうかな。受け身で何とかならないものか。


 そんな事思いつつ乗ろうとして…


「っ…」


 足に痛みを感じてのろうとした瞬間、ガタンッ。


「イタッ…」


 思いっきりこけてしまった。あぶな。咄嗟に左手で庇って事なきを得たけれど、痛いものは痛い。

 

 今度は左が折れたりして…なぁーんて、ははっ。…流石に大丈夫だよね。


 恐る恐る腕を動かした感じ大丈夫っぽい。良かった。


「どうしたの、結人。大丈夫!?」

「お兄ちゃん!!」


 バンっと勢いよく明音ちゃん達が部屋のドアを開ける。


「大丈夫?ちょっと待ってね。肩貸すね」

「ありがとうございます」


 凛さんに手伝ってもらい車いすに座る。


「結人、私は今、すごく怒っています」

「私もだよ、お兄ちゃん」


 二人からじっと見られる。二人の整った顔で見られると何だか凄みがあって目をそらしてしまう。


「こっち、向いて。昨日、私はなんて言ったっけ?」

「私もちゃんと言ったはずだよ?」


 昨日………。


 帰ってきて、二人がずっと僕の身の回りの世話をしてくれて腕がつらいだろうからと言って食べさせてもらったりと二人にいつも以上に世話を焼いてもらって、やっと家に帰ってこれたことも相まって僕は浮かれていた。


「寝る前に、言ったはずだよ?起きたらまず私を呼んでって」

「それが嫌なら私を呼んでって言ったはずだよ?お兄ちゃん」


 一瞬、二人の視線が交差したけれどすぐに僕に二人の視線が集まる。


 …確かにそんな事寝る前言われた気がする。


「結人、私はね。あなたの事が心配で堪らないの。それに…だから、次からはしっかり私のことを頼ってね?なんて言ったって私は結人の頼れるお姉ちゃんだからね」

「私も、頼ってね?可愛いくて優しいお兄ちゃんの妹からのお願い」


 二人はなんだか言っている途中で締まりのない顔をしていた気がするけれど、確かにそうだな。二人に、これ以上心配させたくないし。


「分かりました。頼りにしてます。二人とも」

「うん!!」

「任せてね」


 二人とも笑顔で頷いてくれてほんとに良い人に恵まれたんだなと心の底から実感する。


「それで、さっそくで申し訳ないんですけれど」

「そんなに畏まらなくていいわ。それで何したいの?」


 僕にはいきたい場所…いや、退院したらどうしても行かなければいけない場所があった。






 




 


 


 

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