第50話 一人足りない。
「それじゃあ、行ってくるね。お兄ちゃん。お母さん」
「行ってきます。結人。お母さん」
「「行ってらっしゃい」」
お兄ちゃんと、お母さんが笑顔で送り出してくれる。
お兄ちゃんの事が好きだと自覚してから、一週間が過ぎた。…でも、有効な手段も見つからずにいる。
そこで、日ごろから頑張っているお兄ちゃんにプレゼントをして喜んでもらおうという作戦を思いついた。…喜んでもらうのはもちろんだけれど、少しだけでもいいから私の事女の子と見て欲しいと言うか、私の気持ちに気付いてくれたらいいなと言う打算はあるけれど。
でも、多分、お兄ちゃんは家族として受け取って号泣するんだろうなと容易に想像できるくらいに喜んでくれる顔が浮かぶと同時に、やっぱり家族としてなんだなと言う少し暗い気持にもなる。
例え、義理と言っても私たちは家族で、それこそ血のつながっているようなそんな見えない絆でつながっている。私もお兄ちゃんの事を本当の兄のように思えるからやっぱり抵抗はあるけれども、好きと言う気持ちが強い。
お兄ちゃんの顔を見ていると鼓動が速くなるし、かっこいいって思うし、他の女の子と喋っていたりすると、もやもやもする。たとえお姉ちゃんだとしても。
いや、お兄ちゃんの事が好きなお姉ちゃんだからこそかな。
…絶対、負けないもん。お姉ちゃんにだって、あの、篠崎さんにだって。
そんな事を思いつつ、昨日お母さんやお兄ちゃんに出掛ける話をしたところ、お姉ちゃんも出かけるそうで、しかも、お姉ちゃんに聞くと理由も同じだったから笑ってしまった。やっぱり血は争えないなとか思ったけれど、お兄ちゃんに関しては絶対に負けないから。
「明音、なんかあれだね。女の子っぽっくなったね」
「え?どういうこと?」
「前は、そんなに外に出ていくときにきれいな恰好していかなかったじゃない」
「それは、お姉ちゃんもでしょ」
「……確かに」
前まではきれいな恰好なんかしても、嫌いな男が横目にじろじろこっちを見てくるからどうにもきれいな恰好をする気になれなかった。と言うかするのが嫌だった。
「でも、別に普通に可愛いものとかは持ってたよ?」
「うぅーん、なんだろ。とにかくなんか、女の子って感じになった」
「ふふっ。何それ」
思惑顔になって、お姉ちゃんがこんなことを言う。
「やっぱり、恋してるからかな」
「……ちょっと、恥ずかしい事言ったよ?お姉ちゃん」
「う、うるさい。私、先に行っちゃうからね」
「ごめん、ごめん。お姉ちゃん」
でも、確かに、そうかもしれない。私が男の人を好きになるなんて絶対あり得ないと思っていたけれど、今ではこんなにお兄ちゃんの事が好きだ。
それに、お姉ちゃんだってそうだよ?
今日の朝、お兄ちゃんの喜ぶ顔、想像して顔がだらしない顔になってたの、見たんだから。
改札を抜け、ちょうど電車が来る。休日だからか空いてる席は少なかったけれど、何とか確保できた。
「なんか、寂しいね。いつも、あのショッピングモール行くときは、結人がいたから」
「そうだね」
そう言いつつ、お姉ちゃんはここ最近買ってもらったスマホで誰かと多分連絡取り合ってるし。
ちらっと見ると、『結人』って書いてあるし、お姉ちゃん口元がにやけてるし。…。………。
「お姉ちゃん、見せて」
「い、いやよ」
「あとで、お兄ちゃんが勉強している写真あげるから」
「……ん。んー。わ、分かったわよ。というかいつの間にそんなの撮ってたの?」
「それは良いから…」
『結人、今日もありがとね。夜ご飯作ってくれて』8:29
『大丈夫ですよ。凛さんも手伝ってくれたから僕も楽しかったし、とても助かりました。凛さんが作った、唐揚げおいしかったです』8:35
『…そっか』10:55
いいなぁ、私も普段、恥ずかしくて直接言えないことが多いからメールを通してでもいいから思いを伝えたいし、何より、お兄ちゃんとLIMEしたい。
それからも、二人で言いあったりしながらショッピングモールに着く。
お兄ちゃんに喜んでもらえるように頑張ろ!
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