第63話 閑話 手術後

 要望があったので入院中の話です。

 

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 パチッと、目が開く。


 時計を見ると、もう夜遅くになっていた。確か、お昼ごろに手術室に入って、それから大体、十一時間ぐらい?


 麻酔のせいと言うか、手術後すぐだからか痛くて体が起こせないので首だけ動かして周りを見渡す。


 明音ちゃん達は…寝ていた。すやすや、気持ちよさそうに寝ているのが可愛くてつい撫でてしまう。


 昨日の夜辺りから、手術する僕より明音ちゃん達は緊張していたような気がする。


「手術失敗したらどうしよう」とか、「お兄ちゃん、怖くない?」「結人、大丈夫?抱きしめて安心させてあげようか?」

 

 など、数えたらきりがないほどだ。


 ほんとに、凛さんたちには感謝しきれないし、こんなに心配させて申し訳ないなと思う。


 もし、落ちたとき、もうちょっと上手くできなかったかなとか。少しだけ不甲斐ない自分にため息が出る。

 

 まぁ、そんな事言ってもしょうがないことは分かっているんだけれどさ。


「ん、んぅぅー。ゆいとぉ?ゆいとだ」


 先に起きた凛さんが起きたみたいだ。でも、見た感じまだ寝ぼけているみたい。


「おはようございます、凛さん」

「うん、おはよう。………………ん、んー?結人!?大丈夫?」

「大丈夫ですよ」

「良かったぁ。心配で昨日から眠れてなくて」

「僕の手術くらいで大袈裟ですよ」

「結人の手術だから、大袈裟なんかじゃないの!」


 ここ最近、新しく凛さんよくする顔だ。頬を膨らませて、不満をありありと伝えてくる。なんだかこういうのをギャップ萌えって言うのかな。


 すごく可愛い。


「もぅ、おねぇちゃん、うるさい。おにいちゃんがおきちゃう」

「おはよ、明音ちゃん」


 寝ぼけた明音ちゃんの顔をそっと撫でる。


「ふぇ、?お、お兄ちゃん?起きたの!?大丈夫?どこか痛くない?」

「大丈夫だよ、ただちょっと、手術した後だから起き上がれないだけ」

「そ、そっか、良かった。…お、お兄ちゃん。う、うれしいんだけれどその、寝起きだし、顏が赤くなるから撫でるのを止めて」


 恥ずかしそうに、俯き、顏をそっと隠されてしまう。いけない。いつの間にか、愛おしさが湧いてきて撫でてしまっていた。


 ふと、視線を感じて見ると、凛さん僕の顔をじっと見てこんなことを言う。


「じゃあ、私を撫でて」

「え?いいんですか?」

「いいよ。と言うか、撫でてください」

「なんで凛さんがお願いしてるんですか」


 そっと、撫でる。寝ているときにそっと撫でるのとはわけが違うからな。ちょっと緊張する。


 ゆっくり、撫でていき、凛さんの反応を見る。


 目を細めて気持ちよさそうにしているので、嫌がっている訳ではなくて安心した。


 また、視線を感じて見ると、今度は明音ちゃんがこっちをじっと見てきた。


「あ、あの、兄さん、その…」

「ん?どうしたの?」

「えっと、その…。…なんでもない」


 言おうとして寸前で辞める。そして、悲しくて、あきらめた顔をしてしまい、どうしていいか分からず、凛さんの頭を撫でるのを止めて明音ちゃんの頭を撫でてしまう。


「あっ…」

「あ、ご、ごめん。そうだよね、さっき嫌だって言ったもんね」


 手を引っ込めようとして…逆に明音ちゃんは自ら僕の手を取って嬉しそうに笑う。


「お兄ちゃんは、やっぱり何でも分かるんだね」

「ん?なんのこと?」


 本当に何の事だろう。


「結人、なんで私の頭を撫でるの止めちゃうの?」

「あ、すいません、途中でしたもんね」


 そうや手再開しようとして、明音ちゃんがぎゅっと掴んでいた手をさらに強く抱く。


「今は私に貸し出し中だから、お姉ちゃんは何処か行ってて」

「先にしてもらったのは私だし、恥ずかしくて本音も言えない妹なんかに結人の手は渡さない」

「っむぅ…」

「ふふっ」


 二人とも何故かにらみ合ってるし。


 そんなに頭撫でられるの好きなんだろうか。昔母さんからして貰って好きになったからとかかな。


 なんだか微笑ましくていいな。それなら、いくらでも僕の手なんて貸し出してあげたい。


 そう思いながらも、この痴話げんかもずっと見ていたいから傍観者でいよう。



 そのひは結局二人の喧嘩の決着はつかなかった。






 

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