第43話 決まらない。
「……」
「……」
「……」
明音ちゃんの方をちらっと見る。すると、さっきまでこっちに向いていたと思う顔が反対方向に向けられてしまう。
凛さんの方を向くと、なんだかずっとぼぉーっとして時々口元が緩んで優しい顔をと言うか嬉しそうな顔をしているし。
なんだか、気まずい空気を抱えて電車に乗る事数十分、この前明音ちゃんと一緒に行ったかなり大きめのショッピングモールに来た。
「母さんって何が好きなんだろう?」
半年以上たっているけれど、未だに母さんが好きなものは分からない。
「え、えっとそうだね」
明音ちゃんがうーんと首をひねる。
「今までどんなもの渡してきたんですか?」
「いろんな物をを渡したわよ。でもお母さんは何でも嬉しいって言って喜んでくれていたから何が一番好きとかは分からないままなの。聞いても「明音と、凛が一番好きだよ」って言ってくれるから」
母さんらしいな。というか、父さんもそうだもんな。毎年、僕がプレゼントを贈ると、喜んでくれるし。
下手くそだけれど、小学生のころ似顔絵を書いて渡した時は泣いていたっけ。
「とりあえず、お店入ってみて考えましょうか」
「そうだね」
「そうね」
とりあえず最初には入ったのは、雑貨屋。いろんなものが置いてあるけれど、まず目に入ったのはペアのマグカップだ。
「母さんたち、結婚したばっかりだからこのペアのマグカップとかいいかもしれないですね」
「そうね…」
凛さんが隣で真剣にマグカップを見つめている。何か思うことがあったのかもしれない。
「結人、さ。マグカップ結構長く使ってるよね?」
「そうですね。結構長く使ってます」
「この際、一回買い替えちゃえば?私もお母さんの実家から持って来たもの使っているから結構古いし。ほら、このペアのマグカップとか普通に二つ買うより安いよ?」
「そうですね.........」
そうだなぁ、安いに越したことはないしなぁ。
「.....お姉ちゃん。今はお母さんの誕生日プレゼントが先だよ?」
「…そうね」
「そうだね。どうしようか」
それからも、あれやこれやと意見を言い合うけれど、これだってものがなかなか見つからない。
「なかなか決まらないね」
「そうね。去年も結局ギリギリで決めたしね」
「そうなんですか?」
「そう。明音と今みたいにいろいろ言って決めてた」
「お姉ちゃんんがあれはだめ、これはダメって色々言うから」
「しょうがないでしょ。だって、あれは明音が.....」
「お姉ちゃんだって…」
二人が喧嘩?をし始めた。普段仲が良いから、喧嘩しないなんて思っていたけれど……でも、なんだか微笑ましくて笑ってしまう。
「なんで、笑うのよ。結人」
「ごめんなさい。でも、母さん嬉しいだろうなって」
普段喧嘩しない二人が喧嘩までして一生懸命選んでくれているんだから。
「よしっ。もっといろんなところ見て母さんに喜んでもらえるように頑張ろう」
「そうね」
「そうだね」
二人は、力強く頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます