第42話 それぞれの気持ち。

「じゃあ、ちょっと出かけてきます」

「じゃあ、行ってくるね、お母さん」

「行ってきます」

「行ってらっしゃい」


 母さんに送り出され、三人そろって家を出る。

 

 母さんのプレゼントを選ぶから、母さんには凛さんと明音ちゃんと映画見て来るねと、少し心が痛いけれど小さな嘘を吐いた。


 それを聞いた母さんは僕たちの仲が良くて嬉しいんだろう。笑顔で承諾してこうして送り出してくれた。


 外に出て、歩き始めるとまだ夏でもないのに少しだけ汗が出る。地球温暖化のせいか、それとも…。


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 お母さんに結人と出かけると言ったその日の夜。


 私は人生で初めて服選びで迷っていた。別にそれが嫌な訳ではない。ドキドキとかハラハラとかするけれど…褒められたいって思いが強い。一人の顔が浮かぶ。


 やっぱり、私ってあの子の事が…。でも、もし本当にそうだとしたら、良いのだろうか。


 ちくっと心に痛みが走る。


 私たちは家族で、私は結人の”姉”で。


 そんな事を考えても、どの服を着て行こうか、髪型はどうしようとか、結人におかしいと思われないかなと思ってしまうのだから苦笑してしまう。


 私が結人のことをを好きかもしれないという事を私はほんの数日前にお母さんに相談した。


 お母さんは驚きはしないで、「そっか。大丈夫だよ。凛。頑張ってね」と笑って言って私の頭を撫でてくれた。


 母さんが驚かなかったのは、もしかしたら明音も結人の事が…いや、もしかしたらじゃなくて明音の態度を見れば絶対そうだと思う。自覚はしているのかは分からないけれど。


 今はそれよりも.........あぁ、本当にどうしようか。


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 「これかな?いや、こっちかな」

 

 いつもはきれいな部屋が、私の持っている服で目一杯埋まっていた。


 お姉ちゃんとどこか遊びに言ったり、お母さんとどこかに行くときはこんなことなかったんだけれど。


 お兄ちゃんとどこかに行く。それだけで私の胸が跳ねるし、同時になんだか緊張する。


 前に一緒に出掛けたときは、二つの服をどっちにしようか迷ったくらいだったんだけれど、今ではこの惨状だ。


 ほんとにもう、この気持ちには振り回されっぱなしだ。早く何とかしてお兄ちゃんと普通に話せるようになりたいんだけれどなぁ。


 あぁ、もうほんとにどうしよ。


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 それとも.........ちらっと、二人の方を見る。


 なんだろう。二人がいつもの数倍可愛く見える。どう表現していいか分からない。


 こういう時はしっかり言葉に出した方がいいんだろうけれど、僕の貧相な語彙では表せないくらい可愛く見えるのだ。


 でも、どれだけ拙くても伝えなきゃだよな。


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 結人がこっちちらちら見てる。


 わ、私何処変かな?だ、大丈夫だよね。お母さんが大丈夫自信もってって言ってくれたし。


 .........大丈夫かなぁ.........。


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 どうしよう。いつもの数倍緊張する。


 もうなんだか胸が張り裂けそうだ。どうしたらいいのか分からなくなってきた。


 昨日もなんだかあれから悩み続けて朝まで悩んでしまったし、それから急いで眠ろうとしても眠れなくて。


 いつもより自分でも分かるぐらいぎこちない歩き方とか、所作だと分かる。


 もぅ、やだぁ。


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「あ、あのさ、明音ちゃん。凛さん」


 女の子を褒めるなんてことをしたことがないから、ぎこちないけれど。

 

「二人ともよく似合ってるとお、思います。その、可愛いし、き、綺麗だって」

「.........」

「.........」


 .........気まずさに耐えられず、横を向くと、凛さんも、顔をプイっと背けてしまっていて見えない。


……やっぱりまずいことをしてしまっただろうか。そう思って明音ちゃんの方を向くと、両手で胸の部分を抑えて下を向いていた。

 

.........あぁ、もう、気まずい。

 


 







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