第11話 その頑張りが報われたから
「頑張れー明音ー」
明音ちゃんがグラウンドを全力疾走する。
その表情はとても楽しそうな顔をしていた。バトンをもらったときは三位だったのに、今では二位。
そして前の人を抜き、一位になる。母さんに見てもらえている、応援されているからかどんどん力が湧いてくるみたいだ。
……ぼくもいつか明音ちゃんにとってそんな存在になれるかな。
そして一位のままゴールして、母さんの方に手を振る。
母さんも目いっぱい手を振ってそれに答える。
そして、明音ちゃんは僕の方にも俯きがちに、恥ずかしそうに小さく手を振ってくる。
それに僕も手を振って答えると、顏を赤らめて凛さんのいる方向に向いてしまった。
「おい、結人どういう事だよ!」
「どうって何が」
そう言って肩をがんがん揺すってくる育人。
「なんで、お前が新條さんとそんなに仲よさそうなんだよ!」
「それは…」
どうしよう。育人だけではなく周りもこっちを見ている。
兄妹だと言ってしまうのは楽だけど、そういってしまって、もし、「俺、結人と友達なんだよね」とか言われて男子に絡まれるのは嫌だと思う。
でもどうすれば……。関係性がないようにしないといけない。
「分からない、ただ手を振ってみた」
「は?なんだそれ」
「ただ何となく手を振ってみた。ただそれだけ。新條さん可愛いから何となく手を振ってみたんだ。ほら、アイドルとかにもよく手を振るだろ。それと同じ」
「はぁ?ん?んー」
「まぁ、そんな事より僕たちも競技あるだろ」
「え、あ、そうだな」
次は僕たち二年生の番だ。僕も母さんとかに応援されるのかな?もしかしたら........。
よっし。
「育人、絶対一位取ろうな」
「おう、ってなんかいつもよりやる気がすごいな」
「当り前だよ。クラスのためだぞ」
「なんか嘘臭いなー」
後ろから、篠崎さんに声をかけられる。
「まぁいっか。全力でやってくれるなら」
「うん。任せとけ」
「任せる。例え最下位でも一位取ってくれるって思うくらいには任せる」
「.......訂正で」
「ふふっ。嘘だよ。みんな頑張ろうね!」
「うん」
そして、二年生の番になり、第一走者が運動会お馴染みの「位置についてよーいどん」でファースト信号機のやたら大きい音が鳴り響きき走り出す。
僕のクラスの三組は、今のところ二位。クラスは5クラスある。僕はアンカーで六番目だ。五番目と六番目は一周走らなければいけない。
二人目にバトンがつながり、そして三人目の育人にまわる。
二位のまま維持して、そして四人目の時、バトンミスをしてしまう。
段々と抜かされてしまい、四位に転落。
そのまま五番目の篠崎志保にまわり、何とか三位に食らいつく。
一位、二位との差は僅か。行けるか?
「任せた!」
「任された」
僕は全力で走る。段々と距離が縮まっていく。
「結人君、頑張れー!」
一つ目のカーブを超えたとき、母さんの応援する声が聞こえる。.......すごい、やる気が漲ってくる。
いける!
直線を超え、最後のカーブへ。二位を抜かし、あと一人。
いつしか声援も聞こえなくなり、風を切る音だけが聞こえる。
「う、っそだろ」
僕は一位の人を抜かし、そのままゴールテープを切った。
「やった!やっぱり早いじゃん結人」
「今日は調子が良かっただけだよ」
「ふふっ。そっか」
母さんの方を向くと、すごくうれしそうに笑ってた。まるで自分の事のように。
一緒にいる凛さんと明音ちゃんの方を向くと、明音ちゃんは少しだけ手を振ってくれて、凛さんはこっちを少し見たときの顔が笑っていたように見える.......ような気がする。
体育祭が無事に終わり、僕たちのクラスは二位、明音ちゃんたちは一位、凛さんも一位と好成績で終わった。
「明音、頑張ったね!」
「うん!」
「もちろん、凛も」
頭を撫でられ、嬉しそうに笑う明音ちゃん。凛さんはくすぐったそうに眼を細める。
「そして、結人君も」
笑顔でこっちを見て、母さんがそう言ってくれる。
............
「え、ちょっと待って結人君。泣かないで」
「あ、えっと。その」
とても温かい気持ちが体を巡った。満たされた。
「ありがと、母さん」
この体育祭で、家族により近づけた気がする。
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