第34話 安心とうるさい鼓動

「行ってらっしゃい」

「行ってきます」

「行ってきます。……じゃあ、行こっか。明音ちゃん」

「うん」


明音ちゃんと一緒に家を出る。


僕たちが出した答えは、僕が交代で二人と一緒に登校するって言う事でまとまった。だから明日は凛さんと一緒に登校と言う事になる。


でも.........それには期限があって、凛さんが「流石に結人に悪いし、一か月の間だけ私と一緒に登校して。それに......私あなたたちのお姉ちゃんよ?自分の心配をしなさい」と言われ、僕が渋々承諾して一か月の間だけと言う事になった。


「お兄ちゃん。どうしたの?」

「ん?なんでもないよ。明音ちゃん。ただ、凛さん大丈夫かなって」

「大丈夫だよ。私たちのお姉ちゃんなんだから」

「…そうだね」


そう明音ちゃんは言うけれど、やっぱりどこか浮かないような顔をしているように見えて。


「あーそう言えば、お兄ちゃんってどこの高校に行こうって思ってるの?」

「え?そうだな…」


空気を変えるために、明音ちゃんがそう言ってくれる。……しっかりしなきゃな。


「僕は、凛さんと一緒の高校に行こうかなって思ってる」

「そっかぁ。お兄ちゃんもお姉ちゃんと一緒の高校行くのか。でも私入れるかな。お姉ちゃんたちと同じ高校」

「入れるよ。その前に、僕が入れなかったらどうしよう」

「それこそ大丈夫だよ。お兄ちゃんお姉ちゃんと同じくらいに頭いいし。それに......またお願いするから。神様に。お兄ちゃんは今年何をお願いしたの?」

「僕は、凛さんの受験合格と、二人が事故とか危険なことに会いませんようにって」

「ふふっ。お兄ちゃんらしいね」


明音ちゃんが笑う。


ふと、違和感のような、何か嫌な感じがして周りを見ると、僕たちに視線が向けられているような気がする。こそこそとこっちを見る嫌な視線だったり、興味の視線だったり。


それは、そうか。美人で、学校で有名で男が嫌いな明音ちゃんが男の僕と一緒に歩いているんだから。


明音ちゃんの方を見ると、明音ちゃんも視線に気づいて、少しだけ手の先が震えているように見える。いつもいる凛さんもいないから余計に不安だよな。


こんな時こそ、僕がしっかりしなきゃ。


そのために僕がいるんだから。


少しだけ、躊躇って……明音ちゃんの手をそっと握る。


「……こんなことしかできないけれど。……嫌ならやめるから言って」


少しびっくりした顔をしてこっちを見る。そして首を振って笑顔になり、


「嫌じゃないよ。ありがと。お兄ちゃん」


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「そっか。良かった」


ふぅ、っと安心したような顔をする私のお兄ちゃん。


手を握られたときは少しびっくりしたけれど、嫌じゃない。


だって......お姉ちゃんと同じようにしてくれたから。


私とお姉ちゃんが小学校と、中学校で別々になって今と同じような状況だった時。

お姉ちゃんも私の手をぎゅって握ってくれて、すごく安心したのを覚えている。


お兄ちゃんの手。私はぎゅっといつの間にか握っていた。


大きいな。それでいてお姉ちゃんと同じくらい安心して。


……そして、なんだか、心臓がドクン、ドクンってうるさい。


なんでだろう。安心しているのにそわそわするような。むず痒いような。


ちらっとお兄ちゃんの顔を見る。


すると、一層心臓がうるさくなって。


.........あぁ、もう。なんなだろう?この気持ち。







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