第2話捕鯨

「おう! 今行くぞ!」


 海で漁をしていた徳丸白虎が鯨の群れを発見したようだ!


 俺は小型の捕鯨専用船に1人乗り込み、常識外れの勢いで櫓をこいでマッコウクジラに近付いた。そして身体強化魔法で無敵の肉体に変身して、鯨の急所に銛で必殺の一撃を叩き込み多くの鯨を仕留め続けた。


 この世界でも「鯨一匹捕れば七浦潤う」と言われているようで、鯨を狩る事が出来れば莫大な利益となる、まして俺は鯨の尾身・さえずり・コロが大好きなのだ。更に言えば、鯨を塩漬けにして輸出する為も塩田も開発整備させたし、鯨油に蓬(よもぎ)などの薬草を混ぜて作った石鹸や蝋燭を高額な値段で輸出している。


 まあそれくらい儲かるのは、この時代の人間に鯨を狩るのが難しいからなのだけど、魔法で身体強化した俺には簡単なことだ。この宇宙・世界は俺が初めて生まれた所に非常に近く、故郷の古式捕鯨と同じように、用途に応じた多様な捕鯨船が鯨組と呼ばれる捕鯨集団を作って鯨を狩っていた。


 鯨を追い込み銛を打つ15人乗り八丁艪の快速艇勢子舟、網を展開して鯨を拘束する網舟、2隻組で捕獲した鯨を挟み込み曳航する持双舟(もっそうぶね・持左右舟とも)などが存在した。いずれも船団内での識別と装飾のため赤や黄、黒などの派手な色彩で塗装され、きらびやかな姿を誇っているが。俺のように猪牙舟に1人で乗り込み、銛の一撃で鯨を仕留めるなど本来は有り得ないからだ。


 それにマッコウクジラを仕留めて手に入る龍涎香(りゅうぜんこう)は、重量換算で金の8倍もの価値があり、輸出品としては大人気だ。堺や博多の商人だけで無く、明国や南蛮の商人も屋久島の一湊に龍涎香・石鹸・蝋燭・シャンプーが欲しくて集まって来ている。


 元々屋久島の一湊と種子島の市来湊は、日本・琉球・明国を結ぶ航路の中継基地として繁栄していたが、俺が産業開発を進めてからは隆盛を極めている。更に真珠と牡蠣の養殖も始めたから、将来の収入源も安心だ。特に世界最大の二枚貝、シャコガイに核を入れて真珠を養殖させているが、これが将来どれくらいの価値が出るのかも楽しみだ。


 前世の1つの世界での価値だが、最大級の直径24センチ、重さ6・4キロのシャコガイ真珠で34億円だった。直径30センチ・全長67センチ・重さ34キロで100億と言う評価だった。


 「若! サメです! サメが鯨を狙って集まってきています」


 俺も気づいてはいたのだが、周りを警戒してくれていた徳丸白虎を初めとする海軍衆が注意してくれた。だが俺には飛んで火にいる夏の虫だ、サメも俺にとっては獲物でしかない。サメやエイは浸透圧調整のため、血液中に尿素などを含んでいる御蔭で肉の腐敗を遅らせるから、冷蔵庫の無いこの世界・時代でも保存食に適している。


 だが俺が脱血処理や神経締めを海軍衆に徹底的の教えたので、領民にとって非常に美味し食材となっている。特に明国に輸出するフカヒレは、高額で買い取ってくれるので有り難い存在だ。それに肝臓を肝油に加工すれば、とり目・くる病の予防薬として高額で販売することも出来る。人口増加策で増えすぎてしまうだろう、領内で暮らしていけない民をスパイや忍者として活用する為にも、薬売りとして諸国に行商させる必要があるから、各種薬の開発は必要不可欠なのだ。


 その為にはミミズを使った解熱剤など、俺が作れる生薬を今から創っておかねばならない。


 そんな事を考えながら、鯨の周りに集まったサメ27頭を皆殺しにした。これで新たに多くの軍資金を備蓄出来る事になった。

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