第26話道造り

1535年5月『大隅・国分清水城』種子島左兵衛尉時堯・7歳


「若殿、ここはどういたしましょうか?」


「奴隷隊・足軽隊を使って堤防を築かせよ」


「は! 承りました」


 俺は有り余る兵糧・軍資金・兵員を使って農耕に加えて堤防兼用の道を造らせている。この世界この時代でも、地震・津波・冷害・旱魃・洪水が頻発している。まずは自給自足が出来る事が大切だし、最低限の防災準備をしなければならないと思っている。


 そのために領内全ての河川に堤防を築かせているのだが、どうせ堤防を築くのなら敵が攻めて来た時に素早く軍勢を送れるように、商人が1度に大量の商品を運べるように道路としても使えるようにした。そしてどうせなら、道幅を広くして馬車や馬車鉄道が行き来できる2車線にした。


 堤防と兼用だから、幅が広ければ広いほど頑丈だし高くする事も出来る。更に斜面の所に軍用資材に使える竹を植えて、堤防の土が流れ落ちてしまうことをふせいだ。まあ地域の領民が保全をしてくれるのなら、土手南瓜ではないが、堤防の斜面で耕作しても構わないのだが。


「若殿、領内の河川に堤防を築き道路にされる事で、随分と物の値段が安くなり領民から喜ばれておりますが、河川堤防道路を結ぶ道も築かれるのですか?」


「ああ、海岸線の塩田と田畑の境目に津波対策の堤防兼用の道を造る」


「それは?! 余りに長大になるのではありませんか? 万里の長城とは申しませんが、それほどのことが成し遂げられますでしょうか?」


「大丈夫だ、今日明日に造れというわけではない。河川の洪水に比べれば津波は何十年に何百年に1度の事だ、堤防兼用道路が完成するまでは、河川道路の間は海軍艦船に輸送させればいい」


「なるほど! 道路だけを考えてしまっていましたが、大川は船で商品を運んでいますな」


 いつも父上様に付いて上京している、種子島家代々の家老・肥後下総守時典が色々と質問して来る。俺が教育訓練した中で、特に優秀な五人衆ならばすでに理解してくれている事だが、中には十分理解してくれていない親戚衆や譜代家臣衆もいる。


 だが繰り返し繰り返し説明することで理解してもらう事が大切だ。理解しているだろうと言う思い込みで政策を進めてしまえば、下手をすれば大きな間違いをしでかすこともある。そうなった時に苦しむのは領民なのだ!


 今回の船を使った輸送だが、そもそも種子島家のような島出身の輸送交通は船が主体だったのだ。今の種子島家の繁栄も、船を使って各国各地の商人が莫大な物資を売買することで成り立っているのだ。


 今までは人が商品を担いで未整備の道を行き来していた。それを俺が馬・牛・山羊を導入して、商品を背に乗せて行き来できるようにした。更には馬車や馬車鉄道で輸送と言える量まで運べるようにし始めている。だがそれでも川幅が広く水深が深く流れが穏やかな河川を、船で運ぶ商品量には遠く及ばない。何より海上輸送してきた大船から荷をおろし積み替える手間の回数が各段に違うのだ。


 大量の商品が少ない労力で種子島領の何所であろうと運ばれていく、この事が全ての商品を安くする事になり領民の生活を豊かにして行った。関所を廃止して通行税を取らなくしたのが大きいのだが、それだけでは不十分で、能動的に商業が発展するようにインフラ整備をするのが、年貢を集めている領主の仕事だと思っている。

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