第32話息抜き2

 さて、父上様のお預けする酒肴だが、京についた後でも美味しく食べられるものでなければならない。そうなるとどうしても品目が限られてしまうのだが、そこを工夫するのが腕の見せ所だ。


 既に商品化しているシイタケ・ナメタケ・シメジの佃煮小壺詰・味醂醤油煮のガラス瓶詰・ナメタケ梅干和小壺詰は確定だ。もう1つは最近商品化が軌道に乗った、交易に入湊する南蛮人にも大人気のチーズだが、確か公家衆は醍醐といって珍重していたはずだ。ここは桜のチップで燻製したものも新作して、数種類父上様に持っていってもらおう!


 塩辛で持っていけるものは、保存食として試作中や自分専用のものがある。主な物はイカ・タコ・エビ・オキアミ・カツオ・イワシなど色々あるが、コノワタが古来から珍重されているから、今上帝や五摂家の方々だけに献上してもらおう。


 正直惜しいのだが、俺秘蔵の黒作り(イカの塩辛にイカ墨を混ぜたもの)、カラスミ、塩ウニも献上しよう。酒は飲めないのだが酒の肴は大好きで、特に塩辛い肴は大好物なのだ!


 高血圧なんか糞喰らえだ!


 後はこの世界この時代ではとても貴重なんだが、卵を使った保存できる酒の肴も持っていくべきだろう。卵黄の味噌漬けは、今から用意して京で食べ頃になるように作り始めるとして、ピータンの食べ頃も逆算した方がいいだろう。


 後は梅干に醤油と七味唐辛子を和えたものを京で作ってもらおう。


 何よりも塩ウニを焼酎に漬けたものは食べる少し前に作った方がよいだろう。


 だが1番問題なのは、飲食用の献上品を試食しておかなけれないけないという事だ!


 それも酒肴の試食ならば、酒との相性を確かめなければならない・・・・・


「おう! 左兵衛尉! 今日は試食会に招いて頂き感謝いたしますぞ!」


 普段より4段階は大きい濁声で、今日これで5度目の同じ感謝の言葉を聞くハメになる。言葉と同時に熟柿と同じ酒の臭いがプンプンと漂って来る。


「いや~若殿様! このような珍味佳肴は初めて頂きました! このような席に敗軍の将を招いて頂けるなど感謝いたします」


「おうおう三郎左衛門尉殿、まあこれを飲んでみられよ! これほど美味い酒は今まで飲んだことがない!」


「これはこれは監物殿、根来寺の秘蔵酒や興福寺の銘酒を飲んだことのある貴殿が言われる、本当に珍しく美味いのでしょうな!」


「おうよ! ここまで澄みきって甘味があり、しかも酒精も強い酒など天下広しといえども種子島家でしか飲めんよ!」


「それほどですか?! では是非飲ませていただきたい、若殿様よろしいですか?」


 射殺さんばかりの眼で、島津三郎左衛門尉貴久が許可を求めてくる。


「いいぞ、だが出来ればどの酒と酒肴の組み合わせが・・・・・・」


 2人とも、いやこの酒席にいるみんなが当初の目的を忘れはてている。献上する酒肴の毒味は当然だが、酒と酒肴の最良組み合わせを実際に飲食して確かめてもらう心算だった。だがもはや酔っぱらってそんな目的を地平線の彼方に飛んで行ってしまっている。


 このあと下戸の俺には地獄のような時間が夜明けまで続いた!

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