第23話坊津
1535年4月『大隅・国分清水城』種子島左兵衛尉時堯・7歳
「皆の者面を上げよ」
「「「「はっはぁ~」」」」
「今日は特別のはからいを持って父上様との直答を許すが、まずは私との問答をして気にかかる所を父上様がご下問される。その場合は直接父上様に話しかけることを許す、あい分かったか?」
「「「「はっはぁ~」」」」
今日は海賊や遣明船の寄港地となっている坊津からの代表団が種子島家に陳情にやって来た。坊津は明国をはじめ、琉球・南方諸国・南蛮とも貿易が活発だったのだが。最近は種子島家支配下の湊におされて寂れる一方だった。一時は明国から安濃津・博多津とならんで「日本三津」とまで呼ばれていたのだが。
「お殿様・若殿様、どうか我らの願いをお聞き届けくださいませ」
「出来る事なら聞き届けてやろう、だが出来ぬ事を頼まれても無理である」
俺の言葉を受けて坊津の代表3人は互いに誰が言いだすかけん制し合っている。よほど言いにくい事なのだろうが、それでも最初から決断してここに来ているのだから、俺たち親子の前でモジモジされても印象が悪くなるだけだ。
「その方どもは覚悟してここまで陳情に来たのだろう? ここでためらっても我らの印象が悪くなるだけだ、掃部助が代表して話せ!」
俺から見て3人は中々の人物に見える、まあそれは当然だろう。この戦国の世で、色んな国まで出向いて命懸けで商売しているのだ。時には海賊に襲われる事もあれば、現地の有力者と敵対して戦う事もあるだろう。いや場合によっては、自分たちが海賊となって町や船を襲っている事すらあるだろう、それくらい乱れに乱れた世の中なのだ。
「はい、では代表してお願いさせていただきます、どうか坊津を種子島様が治めて頂きたいのです」
まあ想像通りの展開だ、父上様にも事前にこの可能性はお話してある。今のまま種子島家支配の湊にだけ各国各地の商船が集まれば、坊津は干上がってしまう。もちろん自ら種子島家の湊にやって来て商品を仕入れ、それを各国各地に売りに行ける大規模商人なら生き残りも可能だろう。だが湊で小商いをしている者は干上がってしまう。まあ種子島家の湊に移住すれば何の問題もないし、実際すでに結構な人数の坊津住人が逃げて来ている。
「なにも種子島家がわざわざ坊津を攻め取る必要はあるまい、坊津の商人が種子島家の湊に移住すればよい、種子島家は喜んでそなたたちを受け入れるぞ?」
「確かにその方法でも坊津の人々は生きて行くことが出来ます、ですが坊津は明国と交易する上で場所がいいのです。それにすでに明国でもよく名が知られております、その利点を捨てるのは種子島様にとっても損ではありませんか?」
さすがに商人だ、損得をよく計算しているが、それはあくまで坊津商人からだけの視点だ。種子島家から見た損得をちゃんと計算していて、それを補う協力をする心算かは確認しておかなければならない。
「だがその為には島津家と戦わねばならぬ、その損失をどう考える?」
「坊津の住人」
鳥原掃部助宗安・坊津の商人・坊津天神丸の船頭
渡辺三郎五郎・坊津宮一丸の船頭
坊津佐左エ門
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます