第22話孤児院

1535年4月『大隅・国分清水城』種子島左兵衛尉時堯・7歳


「父上様、今日は折り入ってお願いがあるのです」


「改まっていったい何ごとだ左兵衛尉よ?」


「実は親を亡くした子供たちを育てる所を作りたいのです」


「ふむ、神仏の申し子たる左兵衛尉が、慈愛の心で孤児を助けたいと言うのは当然であろう。その為に必要な費用も食料も左兵衛尉が独力で生みだしているから、父としては反対する理由はないが、種子島家の当主としてどう言う利があるのかは確認しておきたい」


「はい、それは種子島家に忠誠無比の家臣を育成することが出来るからです。生きるか死ぬかの苦境を助けてもらい、幼き頃から慈しみ育ててもらえば種子島家に対する忠誠心は、成人してから利害で臣従してきた者とは比較にならないものになります」


「なるほど、確かにそれはそうだな」


「それに、武芸はもちろん鉄砲鍛冶として育て上げるにしても、海軍衆として航海術・砲術を教え込むにしても、医師として薬の調合や医術を学ぶにしても、幼ければ幼いほど多くのことを早く身に付ける事が出来ます」


「うむ、ならば自由にやるがよい」


「ご許可いただき有り難き幸せでございます」


 父上様には表向きの武家としての建前で説得したが、この戦乱の世で孤児が溢れ死に瀕しているのを見過ごすことは、俺の不完全な良心回路でも出来ない。力足らずで見て見ぬふりをしなければならないのならともかく、今の俺なら有り余る魔力を活用して助ける事が出来るのだ。


 父上様の許可を頂いて直ぐに、全家臣に命じて孤児院用の長屋や小屋を建設させた。同時に孤児たちを世話する女を女中として大量に雇用した。戦乱の世に女性の就職口など限られてるため、既婚未婚を問わず多くの女性が応募してきた。


 さらには毎日ひっきりなしに出入りする商人にも、孤児を引き取り養うと宣言した。まあ今までも奴隷の子供を買い取っていたから、特に宣言する必要などないのだが、俺が孤児を優先的に引き取ると各国各地に広めてくれれば、奴隷としてではなく子供を集める事が出来るかもしれない。


 弊害として子供を攫う犯罪が増えてしまうかもしれないが、これは俺が孤児院で子供を引き取らなくても、以前から奴隷商人によって子供を誘拐することも売買することも行われていた。今さら気にしてもしかたがない、それに俺が奴隷ではなく平民として孤児を引き取ると知れ渡れば、心ある親なら子供を売らずに一緒に大隅まで逃げて来るかもしれない。現に多くの難民が毎日大隅に逃げて来ている。

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