第17話領地拡大の苦悩

1535年2月『大隅・国分清水城』種子島犬楠丸・7歳


「若殿、今が好機ではありませんか?」


「駄目だ」


「しかしながら、若殿が空を駆けられたことと神仏の申し子と言う事は、近隣諸国に広まっております。今若殿が侵攻なされれば、どの国衆も領民の反乱を恐れて手向かうことなどないと思いますが?」


 確かに朱雀の言う通りなのだが、俺には俺の矜持と言うものがあるのだ。


「確かに朱雀の言う通りだが、支配者には支配者の責任と言うものがある」


「何でございましょうか?」


「民を外敵から護るのはもちろん、自然災害にも備え餓えさせることが無いようにせねばならん」


「そこまでせねばならないものでしょうか?」


「余は神仏の申し子と名乗っておるのだ、それが天災を防げないどころが、民に満足な食べ物も与えられないとあっては嘘偽りになってしまうではないか」


「なるほど、それもそうでございますな!」


「今は新たに手に入れた、北原・伊東・北郷と元からの大隅国・多禰国を統治することに全力を注がなければならん。それに余を頼ってやってくる難民と、買い入れた奴隷に長屋と食料を与えることで精一杯ではないのか?」


「確かにその通りでございます、彼らが住む為の長屋と食料を不公平なく与えるのに四苦八苦しております」


「ならばまずそれに専念いたせ」


「は! 承りました」


 今の種子島家は発展の一途をたどっている。毎日のように、各国各地から商人の船が種子島・屋久島・根占湊・清水湊にやってくる。彼らが多くの食糧と原材料を売りにやって来るのだが、同時に奴隷も売りに来るので奴隷達に最低限の生活を保証する物資が必要となる。


 さらには毎日九州各地から難民が種子島領に逃げて来るから、難民達にも最低限の生活を保障しなければならない。当然持ち出しだけでは種子島家の財政が破たんしてしまう、だから彼らを屯田兵や漁民として活用すべく、各奴隷部隊・足軽部隊に組み込まなければならないが、それが大変な労力なのだ。


 もちろん商人たちから食糧・原材料・奴隷を購入するには魅力ある特産物が必要不可欠だ。商人たちが我先に集まるのは鯨から作る特産品がるからだが、だからそこ政務や軍事の合間を縫って鯨狩りを続ける必要がある。今は金銀銅が莫大な量があるが、将来の日本の事を考えれば、金銀銅を海外に流出させる訳にはいかない。


 増強再編を続ける種子島海軍を指揮して、鯨を探して沖合遠くまで出向かねばならないことも多くなった。だが鯨ばかりを狙うのは非効率なので、フカヒレとサメ肝油といった高価な部位を採取することが出来るサメを狩る事が多くなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る