第18話息抜き1

1535年2月『大隅・国分清水城』種子島犬楠丸・7歳


「若殿、この麦でよいのでございますか?」


「ああ、この麦ならよいうどんを作ることが出来る」


「しかしこのような大勢で品定めをする必要があるのでしょうか?」


「よく覚えておけ篤長、領主たるもの軍資金や兵糧の確保は必要不可欠なものなのだ」


「それはよく存じておりますが」


「ならば商人の持ち込んだ品の良し悪しを知り、出来るだけ良い品を安く手に入れなければならん。さもなければ商人の言いなりに悪い品を高い金で売りつけられるし、良い品を安い金で買い叩かれてしまうのだ」


「なるほど! 領主となる者はそのような事も知らねばならないのですね!」


「そうだ、合戦で領地を奪うのが手っ取り早いように見えるが、そのためには将兵や民を傷つけ死なせてしまうこともある、そうなってしまえば損失の方が多くなってしまう」


「そうだぞ篤長殿、何より合戦になれば田畑が荒らされるし領民を攫われる事もある。収穫前の作物を奪われたり火を放たれてしまう事もあるだろう?」


「確かにその通りでございますね、朱雀殿」


 今日も政務の合間を縫って、商人が持ち込んだ商品の検品を行っている。余りに忙しい時は、俺が鍛え上げた検品・品質管理の専門家が行うのだが、出来るだけ自分自身で行うようにしている。そうでなければ担当者が不正をする事もあるだろうし、商人があくどい遣り口で儲けようとする事もある。もちろんあまりに悪質な商人はブチ殺して船も商品も接収している。


 今日は領主や領主候補にも勉強の為に検品に同行させている。まあ普段から手の空いている全家臣に品定めの勉強をさせているが、俺と一緒かどうかで家臣たちの緊張感に雲泥の差が出るのだ。


 まあ今回は俺の食欲を満足させるためと言う面もある、今回手に入った小麦はうどん用に適しているのだ!


 なぜうどん用の小麦に執着したかと言うと、干昆布とかつお節が完成したからだ。昆布は種類や干し方・熟成期間で全然味が違ってしまうから、まだ満足できる出来栄えではないが5年も熟成を待てるものではない!


 かつお節は原料が種子島でも手に入ったので、言葉をしゃべることが出来るようになって直ぐに作らせた。だから今では本枯節や仕上げ節まで作ることが出来るようになっている。だがら昆布が手に入った以上、うどん出汁を作って食べたいのだ!


 もちろんうどんに入れる具材も手を抜く心算は無い。残念ながら身欠き鰊は手に入れる事は出来なかったが、軍鶏を甘辛く砂糖醤油で煮たものと豆腐を薄く切って油で揚げた薄揚げを甘辛く煮たものは用意した。だがそれだけで満足できる俺ではない、サメ肉を活用させるためにサメ蒲鉾を作ったし、鳥の卵を探し出させて茹卵も用意した。


 だが俺が1番重要視したのはおぼろ昆布だ!


 昆布の出来が完全でない以上、それを補うのはおぼろ昆布を出汁に浮かべることだ!


 俺お手製の具だくさんうどんを食べた家臣たちは恍惚とした表情を浮かべている!


 当然だろう、この世界この時代にこれほど美味いものは存在しない、だが俺には1つの野望がある!


 うどんにコシなどいらん!


 讃岐うどんは敵だ、大坂うどんこそ正義なのだ、この世界この時代だけは大坂うどんを本流にしてみせる!

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