第30話線香

1535年8月『大隅国・国分清水城』種子島左兵衛尉時堯・7歳


 今年も津田監物殿が船団を仕立ててやってこられた。まあ根来ゆかりの商人は毎日のように湊に入ってくるが、監物殿の紹介状を持っている者だけは少し優遇している。父上様を京・東国に送るのに監物殿の護衛は外せない。そうなると特別待遇は仕方ない、多少の損得など父上様のお命には代えられない。


「どうかな左兵衛尉殿?」


「よき出来でございますな! 流石に根来の職人は腕がいい!」


「うむ、左兵衛尉殿に太鼓判を押してもらえば安心だ!」


「ええ、この出来なら使うにしても売るにしても強気の交渉ができるでしょう」


「では左兵衛尉殿に買って頂こうかな?」


「喜んで買わせていただきますが、数はどれくらいありますか?」


「軍船も買ってくれるのかな?」


「はい、出来がよければ全部買い取らせていただきます。でも検品は行わせていただきますよ?」


「それは当然だな、売買用の軍船一杯に運んできたよ」


 まあ軍船と言ってもスクナーやフリゲートではない、南蛮船の建造技術はまだ種子島家の独占技術にしたい。いずれは日本中に知れ渡るだろうが、先行の有利さを出来るだけ維持したい。だがら監物殿から購入するのは関船か小早船なのだが、それでも船首に大砲を搭載すればかなりの戦力になる!


「監物殿が特に欲しがられているのは、仏像真珠と螺鈿細工でしたね?」


「それとまた龍涎香を頼む」


「並みの商品でよかったのですね?」


「ああ、毎日のお勤めに使うからな、欲しがる方が多くなったので数がいるのだ」


「高価な物でよければ麝香や香木も明国・南蛮・南方から色々と仕入れていますが?」


 香に使うものとして、動物性のものとして龍涎香以外に麝香を輸入しているし、伽羅・沈香・白檀などの天然香木や乳香・安息香などの芳香のある樹脂も手に入れている。だが乳香や麝香などは漢方薬としても使えるので、金と同じ重さの価値で買い入れているから、売る時は金の4倍の価値で売る必要がある。


「そうだな、並みの品物を必要量手に入れる事が出来た後なら、多少は高価な品も買えるのだが」


「では新商品があるのですが試してみますか?」


「どんなものなのだ?」


 俺が色々と奇抜で便利な新商品を開発生産している事を知っている監物殿は、興味深々な様子を隠す事なくたずねられた。


 そこで俺は線香をに火をつけて香りを確かめてもらった。


 1つ目は杉線香で、3ヶ月ほど乾燥させた杉の葉を水車を用いて粉末にしたものに湯とノリを加えて練り、線状に成型・乾燥させたものだ。香木を使用した線香には香りが劣るが安価に製造できる。だがヤニが含まれるので、大量の煙を出す欠点がある。


「これはいい! これはいくらだ?!」


 この後で熾烈な価格交渉があったが、他の商人より1割安い卸値で販売することで話がついた。だがそれでも製造原価より5倍の利益を確保している。


 2つ目は匂い線香で、椨(タブ)の木の樹皮を粉末にしたものに、白檀・伽羅といった香木の粉末や他の香料(バラ・ヨモギ・ショウブ・ラベンダーなど)に炭の粉末を練り線状に成型・乾燥させたものだ。香木でも低品質のものや見た目に劣るものを使い、俺独自の配合で出来るだけ安価に、だが香りが引き立つように創り出した商品だ。


 匂い線香の香りを確認した監物殿は、唸り声を隠す事なく悩みに悩まれた上で、高価な物と並みの商品を上手く配分されて購入された。もちろん転売することも考慮されているのだろうが、父上様の船団が商品を大量に輸送するので、父上様が遠慮して商品を販売しない紀伊国・大和国での人気商品を選ぶ必要があった。


 だがまあまだ日本国内に線香は出回っていないから、日本初の商品という事になる。だからとても貴重品で高価に売る事が出来る。朝廷と幕府に献上する線香以外は監物殿にだけ卸すことにするから、1年目だけは価格競争無しで監物殿は儲けることが出来る。


 父上様の安全を確保するためには、日本各地にある根来寺の末寺を利用する必要があるのだ!

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