第290話飛騨国始末2
1548年9月:飛騨国
俺は朝廷内の根回しを済ませて、一気呵成に飛騨に攻め込んだ。
街道整備をする為、かねてより美濃から飛騨に入る道普請は進めていたが、越前を攻め取ってからは、越前から飛騨に入る街道も急速に道普請させていたのだ。
その道普請が飛騨の勢力圏と接するまで完成し、今川との最前線も尾張国となり、安全に飛騨に攻め込めるとなってからの総攻撃だった。
もちろん定石通り、俺が空を翔けて、敵対勢力の城門や土塁を破壊しつくし、大岩を城砦に叩き付けて、完膚なきまでに防御力を奪った上での総攻撃だ。
飛騨の多くの百姓や雑兵は、俺達種子島家が攻め込んで来ると知り、諸手をあげて迎えようとしてくれていた。だが白川郷では、本願寺系の正蓮寺が力を持っており、内ヶ島氏利とも協力し、徹頭徹尾俺に反抗してきた。
仕方がないので、鯨や大型の鮫を籠城している城砦に叩き付けて破壊し、その鯨や鮫を眼の前で焼いて食べて見せた。
これによって、食うや食わずの生活から本願寺の教えを信じた百姓を、現実の利益、特に食欲で信仰から引きはがそうとした。
多くの百姓は、女房子供などの家族を養う為、に仰を捨てた。だが中には狂信的な者もおり、内ヶ島一族の籠る城に入り、最後の最後まで抵抗した。
白川正蓮寺の十世法主・明心は死ぬまで戦ったが、内ヶ島氏利を筆頭とする内ヶ島一族は途中で降伏し、僅かな城地を残し殆どは五衛府の扶持武士と成った。
僅かでも城地を残した理由は、内ヶ島一族が鉱山採掘技術を持っていたからだ。九州・台湾開発で、鉱山技術は飛躍的に向上したものの、職人は少しでもい方がいい。新たな技術は教えなければならないが、一から教えるよりはずっと楽なのだ。
一方姉小路家に関しては、向姉小路家の高綱は命だけは許し、公家として京の街に移動させた。一門に関しては、希望に合わせて五衛府の扶持侍か、侵攻軍の扶持侍として召し抱えた。
小島姉小路家に関しては、小島雅秀を始め一族一門衆は、種子島家の扶持武士として召し抱えた。同時に姉小路家の宗家である事を認めたが、条件に種子島家一門を婿養子に迎えることを要求した。
史実でも小島時光は、生き残るために三木自綱の次男・元頼を養子に迎えている。家名と血脈を残した上に、飛騨の小大名の元で生き残るのではない、日ノ本の覇者一門に加わる事になるのだ。小島雅秀は二つ返事で婿養子を認めた。
三木直頼・良頼親子に関しては、当初は将軍家や近衛家と誼を通じていたし、美濃の土岐家と同盟を結んで南飛騨を支配下に置いたしたたか者でもある。
その証拠に、俺が京で力を見せつけた頃から徐々に接近して来て、近江を支配下に置いたころには、美濃の土岐家・斎藤家や尾張の織田家と共に、俺にも堂々の接触を行っていた。
これは誰が美濃の覇権を握っても、敵対する北飛騨の江馬時経・時盛親子や、木曽の木曾義在・義康親子と戦っている時に、美濃方面から攻め込まれないようにするための布石だったと思う。
能力はあるとは思うが、信頼を置ける武将ではないので、そのまま飛騨に置いておく訳にはいかない。だから扶持武士として種子島家に仕えるか、武士の誇りを持って討ち死にするか最後通牒を送った。
やはり三木直頼・良頼親子はしたたか者で、躊躇なく扶持武士として種子島家に仕える事を望んだ。しかし同時に条件も出してきて、北飛騨や木曽攻撃の先陣を望んで来たのだ。
これは上手い手で、ギリギリまで飛騨に留まる事が出来る上に、地形を知り尽した北飛騨や木曽での戦いで、手柄を立てることが出来ると計算しているのだ。
もちろん種子島軍としても、地の利を知り尽し道案内が出来る、飛騨の国衆・地侍を先陣に加える利は重々承知している。俺や種子島侵攻軍が有利なうちは裏切ることもないだろうし、能力のある武将が強かなのも当然だろう。だがら三木直頼・良頼親子の願いを聞き入れ、侵攻軍の最前線部隊として加えた。
江馬時経・輝盛親子は、最初は抵抗しようと考えていたようだが、白川正蓮寺と内ヶ島氏利が碌な抵抗も出来ずに負けたこと。向姉小路家や小鷹利姉小路家が、戦う事もなく降伏臣従した事。高原諏訪城をはじめとする江馬家勢力下の全城砦が、城門と土塁を破壊され、籠城すら出来ない状況となり、戦わずに降伏臣従することにしたようだ。
一応開戦前に降伏臣従して来たが、最初に送った降伏の使者には抵抗を示していたので、高原諏訪城と僅かな領地だけを残し、他は扶持化することにした。これは江馬家が内ヶ島家と同じで、鉱山技術者を多く抱え、保有する神岡鉱山(銀・鉛)の生産を拡大し、収入を増やしていた実績があるからだった。
鉄砲や大砲の玉に使う鉛は、いくらあっても足りない状況だったし、銀は未来のために備蓄しておきたかった。神岡鉱山は没収するが、鉱山技術を取り入れた手腕は評価すべきなので、飛騨国内では内ヶ島家と同じ扱いとなった。
もちろん内ヶ島家と違い素直に降伏臣従したので、侵攻軍や五衛府で召し抱える一門衆の扶持は多く、元からいた一族郎党を全て維持することが出来るほどだった。
他にも高山城の高山外記、滝ヶ洞城の鍋山安室、吉城郡高堂城の広瀬利治、三枝城の山田紀伊守などの城地持ちが降伏臣従して来たが、全員城地を召し上げて扶持武士化した。
だが種子島家の扶持化政策の利点が広まっていたようで、さして抵抗なく、飛騨全域を支配下に置く事が出来た。もっとも、農民兵の主力になる民百姓が俺を慕っていたので、とてもではないが戦える状況でなかったのも確かだ。
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