第72話家内安全1
1537年11月『大隅国・国分清水城』種子島右近衛権少将時堯・9歳
「少将様、お手玉を見せてください」
「いいよ」
俺は毎日一条於富姫のもとに通っていた。まあ互いに幼いから、一緒に遊んで食事して添い寝するだけなのだが、それだけでも乳母や侍女から土佐一条家に内容が送られる。そうなれば土佐一条家も一条本家も安心するから、同盟関係を円滑にする為には必要不可欠な事だ。
それに於富姫が、俺と遊ぶ事を本当に愉しみにしてくれているようなので、100度以上も転生していい加減老成しているはずの俺が、身体年齢に引きずられるのか、なにか愉しく嬉しい気持ちになるから不思議だ。
「少将様、一緒にアヤ取りをして下さいませんか?」
「いいよ」
「少将様、姫様、少将様が手ずからお作り下さいました、南瓜汁が冷めてしまいますが?」
「南瓜汁? ぱんぷきんしちゅーのこと?」
「はい、ぱんぷきんしちゅーの事でございます」
「でざぁーとはあるの?」
「パンプキンパイを用意していますよ」
「うぁ~、先に食べたい!」
「ではパイとシチューを一緒に食べましょうか?」
「はい! そうさせてください!」
毎日於富姫のとこに訪れる時には、手作りの料理を1つは持参するようにしている。忙しくて1品しか自作できない時は、料理長以下の台所役に他の料理も作らせている。機会があるごとに料理長にレシピを伝授しているが、やはり微妙な味付けや火加減は自分でしなければ満足できない。
毒味の意味もあって、乳母や侍女も同じものを食べるのだが、女衆は芋・蛸・南瓜が大好きだ。特に薩摩芋・南瓜は、まだ土佐にまで広まっていないから、作って持ってくると女衆の眼の色が変わる。だからどちらを材料に使う時も、1度に大量に作れる料理を1品は用意し、女衆が満足できるくらいの量を持ってくるのだ。
パンプキンパイは1度に沢山作ることは出来ないから、乳母と毒味薬の役得になってしまうが、パンプキンシチューは於富姫付きの女衆が腹一杯食べれるだけの量を作らせている。
「少将様、とても美味しいです!」
「そうか、それはよかった、これも食べるかい?」
「でもそれは少将様の分ではないのですか?」
「私は肉や魚が好きだから、姫が好きなら差し上げますよ?」
「本当ですか? ありがとうございます!」
俺と姫の会話を乳母たちは微笑ましげに眺めているが、この積み重ねが、俺の奥での安楽な生活を保証してくれる。姫への忠誠心が有れば有るほど、俺の1つ1つの態度が女衆の俺への反感や殺意に繋がってしまう。
「少将様、美味しいです!」
大きめのパイ2つ目だが、それでもまだ美味しく食べられるようだ。甘くなり過ぎないように砂糖を入れなかったが、交易で手に入れたシナモンを使ったのがよかったのかもしれない。これだけ美味しそうに食べてくれると、明日ももっと手間暇かけて作ってあげたくなる!
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