第84話父上様5度目の上京と津田監物殿の護衛

1538年8月『筑前国・博多湊』種子島少弐時堯・10歳


「いやはや1年見ないうちにこれほど発展するとはな!」


「昨年は博多湊には寄られなかったのではないのですか?」


「日本海廻りをした船頭から話を聞いたのさ」


「なるほど、では今年も根来艦隊の方々には日本海廻りを御願いします」


「ああ任せてくれ、配下の者にはよく言い聞かせている」


「監物殿には父上様と禅定太閤殿下の護衛をお願いいたします」


「まあもはや種子島艦隊は、俺が護衛する必要ない大艦隊だがな」


「いえいえ、監物殿の顔があるから村上水軍が何も言わないのです、そうでなければ何を言いだすか分かったものではありません」


「それは違うさ、種子島家が村上水軍の要求通りの案内料を払っているからだよ」


 まあ社交儀礼と御世辞はともかくとして、当初は根来寺の影響力がなければ安全な航行と交易が難しかったのは確かだ、だが今では種子島家海軍の艦隊を攻撃しようとする者はいない。


 しかし根来寺は、今でも年々拡大する根来水軍艦隊を種子島領に派遣して来る。早い話が交易の為にやって来るのだが、樺太・蝦夷・東北・関東・東海・畿内・四国太平洋岸と交易しながら、種子島家が欲する物を仕入れてやって来るのだ。


 根来艦隊は莫大な物資を種子島家に販売し、その利益で種子島家からも膨大な物資を購入する。そして同乗してきた津田監物は水先案内役として残って種子島艦隊に合流する。そして根来艦隊は日本海側を北上しながら交易する、その後は蝦夷・樺太をぐるりと廻って太平洋側を紀伊根来寺に帰るのだ。


 一方我が種子島艦隊は、大友家を滅ぼし豊後水道・伊予灘・周防灘の安全を確保する事が出来たので、根来艦隊が交易を行っていない瀬戸内海を交易しながら京に向かう事になる。まあ種子島家御用の商人艦船は、日本海側で交易をも行っているのだが、大内家と同盟を結んでいる種子島家艦隊は、尼子家が支配する領域では表向き交易することは出来ない。


 だがら瀬戸内海を京に向かう航路では、大内家が望む品を販売し種子島家が望む品を購入する。もちろん一条家と敵対しかねない四国側の河野家や三好家とは、表向きの交易は行わない。だが種子島家御用商人が交易をしてくれているので、両家とも種子島艦隊を攻撃して来る事はない。


 でも御用商人たちにも守らせている禁止事項はある。当然のことだが直接兵器である鉄砲・武具に関しては禁輸物資として指定している。


 さて、話は変わるが今回の艦隊には忘れてならない者が乗っている!


 それは大友修理大夫親子と彼に忠誠を誓うごくわずかな人たちで、彼らを京に送るのだ!


「監物殿、修理大夫殿たちの事よろしくお願いします」


「任されよ、京であろうと根来であろうと金剛峰寺であろうと、修理大夫殿が望むところで安心して暮らしてもらうよ」


「もし種子島家を恨んで再起をしようとしても邪魔しないでやって下さい」


「構わないのか?」


「その時は正々堂々戦場でけりをつけます」

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