第34話栄達3・海上航路

1536年3月『大隅・国分清水城』種子島左近衛将監時堯・8歳


「父上様ご無事のお帰りおめでとうございます。更に先触れの話ではご出世なされたとのこと、まことにおめでとうございます」


「うむ、ありがとう左近衛将監、何もかも左近衛将監の申した通りになった。左近衛将監も吾の留守に日向の国衆を降伏臣従させたのだな、まことに天晴である!」


「お褒めに預かり恐悦至極でございます、全ては父上様から受け継いだ血脈と教わった武芸の賜物でございます。ところで私の事を左近衛将監と呼ばれるという事は、父上様だけではなく私も官職が上がったと言う事ですか?」


「うむうむ、さすが吾の嫡男だ! 吾の血脈を受け継いだそなたのことを誇りに思うぞ。そうれのにそなたの申す通り、そなたは従六位上に叙せられた上で左近衛将監に任じられた」


「有り難き事でございます、全ては父上様のお陰で御座います」


「馬鹿な事を言うな、全て左近衛将監の力の賜物なのは分かっている」


 去年と同じように父上様と互いを褒め合って、離れていた間のことを報告し合った。父上様は去年と同し献金と、去年以上の献納をされたがさすがに官位が進む事はなかった。多禰国・大隅国の国司兼守護に加えて薩摩国司兼守護に任じられるだけだった。だがその分は嫡男の俺に配慮されたようで、多禰国・大隅国・薩摩国の介兼守護代に任じられた上に、従六位上・左近衛将監の官職を賜った。


「そんな事はありません! 私には人と交わることが無性に嫌になる時がございます、そのような時に父上様の優しいお助けがなければとてもとてもやって行けません」


「まあ左近衛将監にはそのようなところはある、ならばこそ父も偉そうにしていられると言うものよ。だがそれならば下向に備えなければならんな」


「どういう事でございますか?」


「京の惨状は惨いものでな、毎年毎年荒廃が酷くなっておる。今回の航海でも京から多くの奴隷や難民を連れて帰っただろう?」


「はい、彼らの痩せ衰え傷ついた姿は哀れでございました」


 治癒魔法が使えれば、失った手足であろうが再生してやれるのだが、魔素のほとんど存在しないこの世界ではとても無理だ。


「公家衆の困窮も目を覆うばかりでな、種子島家に下向したいと言う方も多いのだ」


 本来なら、多禰国・大隅国・薩摩国に介は置かれないのだが、今回は特別に繁栄している国と言う事で介が置かれる事になった。しかも多禰国は下国、大隅国・薩摩国は中国の等級なのだが、繁栄著しいので上国か大国に等級を上げる可能性があり、朝廷の使者が下向して来る可能性すらあるそうだ。だがあくまでこれは建前で、本当は出来る限り種子島家に居候したい、もしくは謝礼金を受け取りたいと言う事だそうだ


「そう言う事でしたら、定期的に京と国分清水をを結ぶ艦船で海の道を作りましょう」


「海の道?」


「はい、今も交易のための船団を定期的に蝦夷・樺太まで行き来させておりますが、それをもっと増やし摂津は堺湊、若狭は舞鶴に寄らせて京の朝廷・幕府に挨拶にさせましょう」


「その度にいつものように献金・献納いたすのか?」


「さすがにあれほどの金額や物を納めることは出来ませんが、利の1割くらいは朝廷と幕府に運上金として納めてもよいのではありませんか?」


「種子島家のどんな利があるのだ?」


「朝廷と幕府の公式船団・御用船団として各地の停泊料を免除して頂きます。そうすれば1割の運上金など雀の涙でございます」


「なるほど! それならば種子島家・朝廷・幕府の3者に利があるの!」


 後に種子島海軍は、朝廷と幕府両方の公式海軍・御用船団として日本内外で活動できるようになった。ちなみに今回の航海で10万貫文分の利益を上がり、莫大な物資と艦船・武具・奴隷を持ち帰ることができた。特に船数が増えた事で、より多くの難民・奴隷を輸送することが出来たし、蝦夷・樺太から北方の産物を手に入れる事も出来た。


 日本国内の各国は、時節の国情・時勢を元に変動する大国・上国・中国・下国の4等級に分けられており日向国・大隅国・薩摩国は中国で多禰国は下国とされていた。


 上総国、常陸国、上野国・陸奥国の4カ国は親王信任国で、親王以外の国司は存在し得ず、実質介が国の長官だった。


大国・守は従五位上・介は正六位下・大掾は正七位下

上国・守は従五位下・介は従六位上・掾は従七位上

中国・守は正六位下・介はなし・掾は正八位上

下国・守は従六位下・介はなし・掾は従八位下

左兵衛尉・正七位上相当の「大尉」と従七位上相当の「少尉」

左近衛将監・従六位上

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