第50話商人たち

1536年12月『筑後国・鷹尾城』種子島左近衛将監時堯・8歳


「皆の者面を上げよ」


「「「「はっは~」」」」


「この度は特別の温情をもって若殿が話を聞いて下さるが、直答は許させるものではない、よって私が取り次ぐからそのように心せよ」


「「「「はっは~」」」」


「若殿はとてもお忙しい、よって同じ事を重ねて申したら即座に謁見を取り止めるから、その事重々注意するように」


 今回の商人たちとの謁見を取り仕切る福丸朱雀が注意を与えていたが、実際にはよほどのことがない限り問題は起こらない。なぜなら事前に出入りの商人が話を聞き相談に乗り、その後で交易担当の家臣が十分に陳情内容を確認している。もしそれ以外の願いをすれば、即座に斬首となると脅しているからだ。


「私が代表しましてお願い申し上げさせて頂きます。我ら肥前国・筑前国の商人は、少しでも早く種子島様の支配下で安心して商いさせて頂きとうございます。種子島様の支配下に入った商人は、戦で焼かれる事も盗賊に略奪されることもなく、急な運上金を課せられることさえもないと聞き及んでおります。どうか肥前国・筑前国に侵攻して頂きたいと願いに参りました」


「うむ、だが種子島領の湊は自治が認められていない。今までのように会合衆による自治ではなく、種子島家の派遣した奉行・代官の指示に従ってもらわねばならぬがよいのか?」


「博多・平戸・長崎など、仲間の商人の中には種子島様の御領内の湊に移った者も多うございます。その者たちの話では、種子島様のご政道で護られた方が安心して商売に励むことが出来るうえ、力ある大商人に無理難題を押し付けられることもなく、小さな商人も安心して商いが出来ると教えて頂いております」


 まあそういう事だ、武士だけではなく商人も戦いで、力ある大商人によって弱小商人は虐げられていた。それに今まだ種子島領に移転していない商人は、自前の船が無い弱小商人や大友方や弱小国衆との繋がりが強く(銭を貸していて、国衆が滅ぶと銭を返してもらえず商人も破たんする)移動できない商人だ。


 彼ら弱小商人は、種子島家が侵攻占領する事で湊が国際貿易港として繁栄して欲しいと思っている。それに繋がりの強い国衆が滅ぶ事など無く、種子島家の家臣となって貸した銭を返してもらえる方がいいのだ。このまま種子島家が侵攻しなければ、借りた銭が返せない国衆が他国の大名の下に逃げ出してしまう可能性すらあったのだ。


 俺は福丸朱雀にわずかに頷いてみせた。


「ではその方どもに言って聞かせることがある。若殿に侵攻して頂きたければ、関係のある国衆地侍に種子島家に降伏臣従するよう言って聞かせよ」


「承りました、必ず降伏臣従させて見せます」


 これも茶番だ、すでに多くの国衆・地侍が降伏することを商人たちと話し合っているのだろう。そしてどれくらいの扶持(給料)をもらえれば、商人たちから借りている銭を返済することが出来るかも話がついているはずだ。だが丸々商人たちに儲けさせる必要も無い、なぜならこの世界この時代の借金の利息は年利50%・60%という高利だからだ。


 また俺は福丸朱雀にわずかに頷いてみせた。


「では今度は降伏臣従する国衆・地侍への待遇と、商人たちが貸し付けている銭の返済額を話し合う事にするが、このような些細なことは担当の役人に一任することにする、今日の謁見はここまでである」


「「「「はっは~」」」」

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