第241話小早川繁平

1546年8月:安芸国高山城


「ごんだいなごんさま、おはつにおめにかかります、こばやかわしげひらでございます」


「うむ、急な事で済まないが、小早川家の一大事なのでな、御上の勅命により家中の事に口出しさせてもらう事になった」


「なにぶんよしなにおねがいもうしあげます」


 まだ幼い繁平に難しい話など出来るはずもなく、全ては沼田小早川家の筆頭家老・執権・後見人である田坂義詮が丸暗記させたのだろう。だが丸暗記して、俺と堂々と話ができるだけでも将来の可能性を感じることは出来る。有力家臣家から年頃の娘を父上様の養女とし、後見役や護衛役の付き人と共に輿入れさせよう。


 それまでの間になすべき事は、家中を混乱させて御家乗っ取りを謀った毛利元就派の面々の誅殺だ。特に許し難かったのは、近しい一門分家でありながら率先して毛利元就に媚びを売った乃美隆興だ!


 水軍を無傷で吸収併合するために一旦は許したが、安芸に置いておくわけにはいかない。ただこいつだけを安芸から引き離すのは目立つので、乃美弘平・乃美隆興・梨羽宣平・日名内玄心・椋梨盛平・椋梨弘平など、当主・嫡男・隠居をことごとく京に移動させる。


 その上で、一門の娘に養嗣子として種子島家の有能な若手家臣を送り込んだ。彼らには武勇に優れた直属兵を200を与力としてつけて、籠城戦でも遊撃戦でも状況に応じて展開可能なようにした。直属兵の扶持は、種子島家が支給し、何かあったら種子島家に喧嘩を売る状況を創り出す。


 もちろん降伏条件として手に入れた城と領地には種子島家の家臣を入封させて、万が一大内家・一条家・尼子家・三好家などが連合して攻め込んで来ても、守り切れるだけの態勢を築きあげる。少しでも反抗の言動をした場合は、御上の勅命を蔑ろにした罪で族滅させてやる!


「安心なされよ、繁平殿には指一本触れさせない、必ず護りきる」


「ありがとうございます」


「義詮殿、高山城下を開発して、常時1万兵の護衛兵を駐屯させたいと思うが、構わないかな?」


「御恐れながら御聞かせ頂きます、繁平様を立て続けて頂きますでしょうか?」


「種子島家が小早川家を乗っ取る心算は無い、種子島一門の娘を嫁がせ、血のつながった者が何れ跡目を継いでくれればそれで十分だ。毛利元就のように、子弟を押し込んで先代を隠居させるような事は絶対にしない」


「本当に信じて宜しいのでしょうか? 権大納言様に取ったら小早川家など、吹けば飛ぶような存在ではないのでしょうか?」


「では身も蓋もない事を言うが、小早川家の興亡程度の事で、種子島家の言動の信頼を失う事など出来ん。一旦護ると約束した言葉を違える方が、小早川家の城地を手に入れるより大切な事なのだ」


「そう言って頂きようやく心から安心致すことが出来ました、田坂家の全てを投げ出しても、城下の開発を行わせていただきます」


「金銭の事は心配するでない、種子島家が責任を持って小早川家を護ると言ったのだ、全て安心して任せればいい」

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