第286話美濃国始末

1548年6月:池田郡稲葉山城


「光秀殿、光安殿、この度の働き大儀である」


「は! 有り難き御言葉を賜り恐悦至極でございます」


 今俺の眼の前に控えている明智光秀・光安の甥叔父は、明智家は美濃国第11代守護・土岐成頼の五男・土岐頼基が可児郡明智八郷を領して明智氏を名乗った事に始まると言っている。本当かどうかわからないが、そう名乗っているのだから信じよう。信じてそれに相応しい遇し方をすれば、何か役に立つ事があるかもしれない。


 俺の代わりに奏者が話をしてくれるが、どうも遣り取りが面倒だし時間がかかる。九州・畿内・山陽山陰の半ばを支配下に置いた武家の棟梁として、御上から奏者を置くように言われたから仕方ないが、合戦前後は無礼講にしよう。


「戦場でこんなやり取りは敗北を招く、合戦前後は奏者は不要、今より無礼講といたす」


「「「「「は、承りました」」」」」


 大広間に集まった一同が賛同してくれたが、今の俺に逆らう者はいないから当然だろう。


「斎藤道三殿には、この度の美濃騒動の責任の一端が有る。特に主君の弟君を暗殺した事は厳然たる事実であり、許す訳にはいかない」


「はい、権大納言様の申される通りでございます」


「道三殿には隠居してもらい、嫡男の義龍殿に家督を譲ってもらう。城地は一旦召し上げるが、検地のうえで1割の扶持を与える。斎藤家の家臣は種子島家に直臣とするから、家臣達も心配するには及ばない」


「「「「「はぁはぁ~」」」」」


 今回も俺の単独戦闘で土岐頼芸・頼次親子、六角定頼・義賢親子を一旦捕縛してから追放刑にした。土岐・六角連合だけでなく、土岐頼武・頼純親子や斎藤道三も、開戦前から軍勢としての戦闘力を喪失していた。


 俺の支配下に入った国の民が、戦国時代では考えられないほど安全で豊かな生活をしている事は、既に日本国中で事実として広まっている。そうなると当然の事なのだが、種子島領近隣国では九州で起こったような、貧しい農民・職人・商人の逃散が起こる。


 まして合戦が起ころうとする領地に住む人々は、農民兵に徴兵されたり合戦に巻き込まれるくらいなら、家財を持って逃げ出すのだ。生きるために近隣と村との争いが頻発している農村では、指導者である村長が決断して、村人全員が逃散する事も珍しくないのだ。


 特に今回は、種子島家が攻め込むと公言しており、あれほどの勢力を誇った長島一向衆が瞬く間に滅んだのだ。美濃国内のどの勢力だとかに関係なく、足軽や雑兵が1人もいなくなるような状況になっていた。


 種子島家がここまで突出した勢力を持った状態なら、降伏臣従してきた美濃国の国衆・地侍は、一律最低条件で召し抱え、後々実力をみながら役職を与える方法もあった。だが今回も公家衆からの血縁・地縁による嘆願が有り、ある程度所領を残してやらねばならない者が出て来た。


 その1人が武田信豊の娘(お牧の方)を母に持つ明智光秀であり、叔母の小見の方が斎藤道三の正室となっているので、その辺も配慮するしかなかった。もっとも史実通りであれば、明智光秀自身に才能が有るだろうから、裏切りに注意しながら使うのがいいだろう。


 問題は近衛稙家の庶子で、近衛晴嗣の庶兄の当たる斎藤正義の処遇だった。


 最初は近衛家の庶子として、比叡山横川恵心院に預けられたものの、出家したにもかかわらず武芸を好み、近衛家からつけられた傳役・瀬田左京の姉が斎藤道三の愛妾となっていた縁を頼り、道三の猶子となって武将の道を進んだのだ。


 家柄と持って産まれた才能を生かし、次々と功名を上げ、最盛期には可児郡金山城(烏峰城)の城代として2000兵を預かっていた。もっとも俺の調略で多くの雑兵・農民兵が逃亡し、今では100兵程度しか残ってはいない。


 だが七摂家体制では最下級の扱いとなっている近衛家は、少しでも直接軍を確保したいと言う思いがあるようで、斎藤正義が支配下に置いている戦力と堅城・金山城(烏峰城)が喉から手がでるほど欲しがった。


 形振り構わない交渉と懇願を行うので、可児郡金山城(烏峰城)と周辺の所領を斎藤正義に認めることにした。俺としても、これ以上近衛家と対立したくはなかったし、交渉の条件がある意味で俺の天下を認める形だったので、金山城(烏峰城)と今でも斎藤正義に忠誠を尽す100兵分の所領を認める事にした。


 近衛稙家が出した条件は、越前朝倉家に残っていた家族を京に呼び寄せる事と、近衛晴嗣の名前を前嗣に改める事だった。これは足利義晴将軍を見捨てて、種子島家の天下を認めると言うメッセージだと受け止め、近衛家に配慮することにしたのだ。


 まあ俺から見れば、斎藤正義など歯牙にかけるほどの存在でもないので、少々の城や戦力など与えてもどうと言うこともない。


「明智一族」

明智光継

父親:明智頼尚

母親:不明

正室:武田信豊の娘(お牧の方)

居城:可児郡明智城(長山城)

既に戦死している


明智光秀

父親:明智光綱

母親:武田信豊の娘(お牧の方)

居城:可児郡明智城(長山城)


明智光安

父親:明智光継の三男

居城:可児郡明智城代(長山城)

別名:柿田弥次郎

兄弟:明智光綱

:山岸光信(進士光信)

  :明智光安

  :明智光久

  :原光広

  :明智廉光

:小見の方(斎藤道三正室)

明智光秀の後見人


山岸光連

父親:明智光継の次男

養父:山岸光信

居城:揖斐郡桂館

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