第3話駆け引き
1533年8月『種子島・5歳』種子島犬楠丸
「若様、鉄砲の製造法を教え頂けないでしょうか?」
「駄目だ!」
「どうしてもでしょうか?」
「無理に秘密を聞きだそうとするなら殺す」
俺の言葉に、護衛も兼ねて側に控えてくれていた時述叔父上と時政青龍が、橘屋又三郎を殺さんと身構えた。
「! 御許し下さいませ、二度とこのような事は申しません」
「許してやろう、だがこれ以上こちらが望まぬ物を無理に売れと申したり、秘密を探ろうとしたら警告なしに殺す。このことは他の商人衆、特に堺衆には徹底させよ」
「承りました」
「ところで余が頼んでおいたものは手に入ったのか?」
「南蛮や南方、明国やモンゴルまで伝手を頼りに手配しておりますが、今暫く御待ち頂きとうございます」
「前にもいっていたが全ては競争だ、南蛮や明国の商人が先に手に入れて来たら、彼らに龍涎香やシャンプー・石鹸を渡すからな」
「お待ちくださいませ、何としても手に入れて見せますから、今暫くお待ちくださいませ」
「待たん、全ては約束だ! 以前から余が欲する物を先に持って来た者から順に良い商品を渡すと申してある、又三郎にも何度も申し聞かせてあったはずだ」
「はい、それは聞き及んでおります」
「では少なくとも日ノ本の粗銅を全て買い占めよ!」
「それはお任せください、船に大量の粗銅を積んでおります」
「そうか、ならばそなたが欲しがっていた石鹸を売ってやろう」
俺が日本の粗銅に拘ったのには訳がある。この世界・時代の日本でも精錬技術が未発達で、粗銅の中に金銀が残っているのだ。それを知っている明国は、日ノ本の粗銅を輸入して金銀をとり出してぼろ儲けしている。だから俺は、粗銅を手に入れてそこから自分で金銀をとりだし、その利益を軍資金の一部にしているのだ。
「有り難き幸せではございますが、龍涎香やシャンプーは売って頂けないのでしょうか?」
「それは大型馬や羊・山羊・ジャワ芋・唐芋を持って来た者に与える」
「分かりました、何としても手に入れてみせます」
俺は今後の為にどうしても手に入れたい物がいくつもあった。騎乗や馬車用の大型馬はもちろん、羊毛やマトン・ラム肉を手に入れる為の羊が欲しかったし。乳やカシミア・肉を手に入れる為の山羊や、ジャガイモを示すジャワ芋、サツマイモを示す唐芋も欲しかった。
このまま何も手を打たなければ、琉球の尚家・薩摩の島津家・大隅の肝付家と禰寝家が、種子島・屋久島を狙って攻めてくるだろう。それに対抗するには、経済力はもちろん軍事力も必要だ。そして彼らを討ち払うだけでは無く、逆に琉球本島や九州に攻め込み征服しなければ、とてもではないが島の生産力と経済力だけでは長く対抗できない。
一旦九州に上陸してしまったら、戦国の世を生き抜くために戦って戦って戦い抜かねばならない。その為には小氷河期でも収穫できるジャガイモ・サツマイモは絶対手に入れておかなければならない。東北や北海道まで攻め込み、日本を征服する心算なら、ライ麦も手に入れておきたいのだ。
それに騎獣・駄載獣として考えるなら、現行の在来馬と在来牛だけでは心許ないのだ。だから重種馬・ロバ・ラバ・ヤク・リャマなど、手に入る限りの駄載獣の購入を商人達に依頼してある。特に重種馬のペルシュロン・ブルトン・シャイアーなどは、この世界にいるのかどうかは分からないが、いるのなら絶対に手に入れたい!
それと駄載重量は少ないが、山岳地帯で荷物を運ぶのなら山羊でも十分役に立つ。山羊なら餌の量も少なくて済むし、糞は肥料に仕える。俺の大好きな牛乳を手に入れることを考えたら、ホルスタイン種とジャージー種の乳牛も早期に手に入れたい。
その為に最初は金銀銅を対価に売っていた龍涎香・石鹸・シャンプー・蝋燭などを、俺が指定した商品を持って来た者に優先販売するように変えたのだ。
「犬楠丸、犬楠丸はどこじゃ?!」
父上?
随分慌てておられるようだが何事だ?
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