第37話手術
1536年4月『肥後・八代城』種子島左近衛将監時堯・8歳
「若殿! 大変でございます!」
「何事だ?」
「阿蘇惟将殿のご妻女が、腹痛で苦しんでおります」
「看護隊の女がいるだろう?」
「はい、その者に診させたとのことなのですが、その者の言うには盲腸炎だそうで、若殿以外には治せぬ病だと申すとのことです」
「なに! 盲腸炎だと?!」
「はい、看護隊の女が2人交互に診たそうなのですが、両名とも同じ見立てだそうです」
「分かった、手術をせねばならんが、どうせなら看護隊の女から医者候補になりそうな者を選んで見学させよう」
「阿蘇家が納得いたしましょうか?」
「納得せねば妻女が死ぬだけだ、確認の使者を至急送れ、一刻の猶予もないぞ!」
「は!」
さて、医学の発展の為に種子島家では死者の解剖は普通に行っていた。こんな時代だから、身体外に魔法を使えない以上助けられない人がたくさんいた。言葉を操り身体を動かせるようになった幼い頃は、ろくに薬も無いので手当の出来ない事ばかりだった。
漢方薬から始めて抗生物質の研究開発生産が軌道に乗り、俺だけなら手術も出来るようになったが、この国この世界自体を救うには、病人怪我人にだけ力を注ぐわけにはいかない。だがら看護隊を作ったし、看護師の中で能力のありそうな者を医者にすべく鍛えている。
だから俺が手術する場合は必ず見学させたし、能力や機会があれば実際に手術させる場合もある。今回も阿蘇家が認めるのなら、医師候補に俺が後見しながら手術させたいのだ。いや阿蘇家が認めないと言うなら離縁させ、実家の許可を取ってでも助けて見せる!
結局のところ、今の阿蘇家に俺の依頼に逆らう実力も気力もあるはずがなく、唯々諾々と手術を許可することになった。抗生物質を投与して全身麻酔もかけて、多くの女性医師候補に見学させながら、いま1番独り立ちに近い女性医師候補に手術をさせたが、見事にやりとげてくれた。
もちろんバイ菌の感染には細心の注意をした。石鹸とアルコールを惜しみなく使い手指消毒したし、手術に使うメス・カンシ・ハリも煮沸消毒した。羊の小腸を使って作りだしたカットグット縫合糸を、クロム酸で処理し耐久性をもたせ、ヨウ素処理をして縫合糸の滅菌もおこなった。
種子島家の看護隊・医師候補隊が俺の後見で成し遂げた治療は、九州全土で衝撃を持って広まった。いやそれを知った商人たちが、手術用の道具を欲しがったことで世界中に広まったと言ってもいい。そのため日本各地・世界各地から病で苦しむ者が種子島領に集まって来てしまった。
魔法が使えない今は、やれることなど限られているのに・・・・・
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