第210話足立光永・足立基助・芦田国住

 宇津頼重とその一族郎党を捕え、朝廷の依頼を受ける形で裁判を行った。罪状はもちろん御領所の横領であるから、結果は重罪に決まっていた。結論から言うと宇津頼重と妻子は六条河原で打ち首獄門となり、首級は全て三条大橋のたもとに晒(さら)すことになった。残った一族郎党は、犯罪者奴隷と言う扱いになり、危険で苦しい鉱山夫として死ぬまで働かせる事にした。


 この措置は全国の国衆に大きな衝撃を与えた!


 今までは、俺に降伏臣従を誓えば御領所や荘園の横領罪も領地の削減で済んでいた。最悪でも全領地は没収されたが、領地に見合うだけの扶持を与えられて種子島家の家臣になる事が出来た。


 しかし今回は、朝廷の意向を受けて完全に犯罪者として扱われ、妻子共々打ち首獄門の上で晒し者にまでされたのだ。今現在御領や野荘園を横領している者は、いつ俺が空を翔けて襲撃に現れるか戦々恐々(せんせんきょうきょう)とし、眠れる夜を過ごすことになったようだ。


 何と言っても軍勢を整えて丹波に攻め込んだのではなく、単騎で空を飛んで攻撃を仕掛け、城を破壊して罠を仕掛けた城兵全員を捕えたのだ。どれほど遠隔地であろうと、朝廷が御領所・荘園の回復を望んで勅命を下せば、その日のうちに俺が攻め込む可能性すらあるのだ、やましい所がある国衆は恐ろしくて当然だろう。特に朝廷から返還の使者がやって来た、丹波・丹後・播磨の大名国衆は明日は我が身と思っただろう。


 さて、全ての書類仕事が終わったころには、丹波・丹後・播磨の大名国衆から御領所・荘園の返還を申し出る使者が我が屋敷と朝廷にやって来ていた。だが俺が直接会う事はせず、全ては畿内方面軍を統括している徳丸白虎が、検非違使(けびいし)を兼職する衛門府の担当官に任せていた。


 理由は簡単な話で、今回の事は種子島家の私戦私刑では無く、朝廷の命令で公儀大儀の裁きだと印象付ける為だ。そういう前提条件があった上で、朝廷から全国津々浦々の大名・国衆・地侍に対して、御領所・荘園の返還を命ずる使者が向かった。


 即座に反応をしたのが俺が攻め込んでいる丹波の国衆で、横領した御領所・荘園を返還しただけでは、俺に臣従を誓った赤井時家や籾井教業に攻め込む大義名分を与えると思ったのだろう。降伏臣従を誓う使者として、人質となる嫡男や嫡弟を送り込んで来た。


 最初にやって来たのは赤井時家と交友のあった遠坂城主・足立光永と同族の山垣城主・足立基助、それに小室城主・芦田国住だった。


 足立基助は山垣城を中心に遠坂城、田の口城、小和田城など支城を築き氷上郡北部に勢力圏を築いていたが、芦田国住も負けてはおらず小室城を拠点に氷上郡南部に拠点を築いていた。互いに氷上郡の覇権をかけて争っていたが、決定的な勝敗がつかず消耗戦になっていた。


 足立基助は俺の家臣となる事で、氷上郡の覇権争いに勝とうとしたのだろうが、芦田国住も馬鹿ではなく忍びを山垣城に入れており、足立基助の動きを逸早くつかみ籾井教業を通して俺に降伏臣従をしてきた。


 俺の大名・国衆に対する基本政策を熟知している徳丸白虎や検非違使担当官たちは、大名・国衆の勢力を削ぐような条件で降伏臣従を認める事にした。俺のする事は、ただ謁見するだけだった。

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