第216話蜷川一門(蜷川貞繁・蜷川親順)
「権大納言様、この度は格別の御配慮、真にかたじけなく存じます」
「なになに、蜷川殿は幕府政所執事を務める伊勢貞孝殿の一門として、丹波の目付をよく勤めあげて来られました。同じ蜷川一門の蜷川親順殿は政所代として幕府の屋台骨を支えて来られた、他の国衆と同列には扱えませんよ」
「真にかたじけない事でございます」
「しかしながら、幕府を凋落させた伊勢家の失態は償ってもらわなけらばならない」
「しかしながら、伊勢家としても必死で幕府を支えようとた結果でございます。決して幕府を衰えさせようとしたわけでも、将軍家を蔑ろにしたわけでもありません」
「確かに全ては将軍家自身が招いたことだが、だからと言って全くおとがめなしと言う訳は行かない。政所執事として力及ばなかったせいで、御上と朝廷に多大な迷惑をおかけした。何より山城国を中心とした御領所や荘園を国衆に横領されたのに、幕府は何の手も打てなかった。いや、将軍家自身が率先して御領所や荘園の横領を国衆に勧めたではないか」
「将軍家自身の手勢が少なく、戦乱の世を戦う為に仕方なくなされた事ではございますが、我らの力不足は御詫びするしかございません」
「私から直接話す訳には参らんが、伊勢殿に代わって親順殿が政所執事を務め、幕府の旧臣たちを纏めることはできないか?」
「それは、私の一存で返事出来る事ではございませんが、蜷川一門の所領が他の国衆の様に半知に削られ無かったのは、伊勢家を裏切る事の代償でございましょうか?」
「そうだ、伊勢家は長年に渡り政所執事を務めた事で、将軍家の決定を覆すほどの権威を持ってしまったが、それが幕府を凋落させた原因の1つだろう。今後幕府に復権させる気はないが、阿波公方と伊勢家が結託して世を乱すことは許さん!」
「そのような事は決してさせません! 万が一そのような事になるようなら、私が身命を賭して止めて見せます、ですからなにとぞ伊勢家に御寛恕願えませんでしょうか?」
「ふむ、ならば伊勢貞孝殿を始め幕府の者たちと腹を割って話したいのだが、蜷川殿が仲介してくれるかな?」
「それは構いませんが、権大納言様は幕府を潰す御心算なのではありませんか?」
「その心算だが、幕府の家臣たちを一律に滅ぼす気はない、御上と朝廷に横領した土地を返し世の乱れを正すことに協力するのなら、所領を半知にするくらいで済ませようと思ってる」
「分かりました、その条件で話をさせて頂きます。ですから京と摂津にいる軍勢を、伊勢家討伐に向けないように御願い申します」
「分かった、蜷川殿の返事が来るまで軍は動かさん」
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