第56話九条稙通卿の下向

1537年3月『日向国・土々呂城』種子島右近衛権少将時堯・9歳


「禅定太閤殿下、このような田舎に下向して頂き誠にありがとうございます」


「ほほほほほ、朝廷の公務ゆえ気にする事はないでおじゃる」


「優しきお言葉感謝に耐えません」


「それよりも、これほど立派な屋敷を建てるなど見事なものでおじゃるな」


「お褒めの言葉を賜り恐悦至極でございます」


 父上様が京から帰ってこられたのだが、今回は面倒な同行者が京からついてきてしまった。藤氏長者で2代前の関白、九条稙通殿下が無理矢理視察に下向されたのだ!


 まあ元関白といっても、生活苦で京を離れ摂津国で極貧生活をしていた方だが、父上様の皇室及び朝廷への献金で京に戻ることができて、やっと元関白としての体面を整えた生活ができるようになられたそうだ。


 早い話が、種子島家の支援なしには公卿としての生活が成り立たない超極貧の元関白殿下なのだ!


 だがまあなにゆえにここまで極貧になられたのか?


 全公家に共通しているのは、応仁の乱に代表される戦乱で京をはじめとする畿内が荒れに荒れているからだし。全国に点在する公家の荘園を武家が横領しているからのだが、九条家に関しては特別の理由がある。


 1つ目は5摂家の中で、藤氏長者として受け継ぐ領地を近衛家と争っていて、どちらか地位の高い者が摂政や関白としての費用として受け継いでいたのだが、最終的に近衛家のものになってしまい、九条家は大きく領地が減ってしまったのだ。


 2つ目は九条家と一条家の分家争いなのだが、兄弟どうしでどちらが本家かを争ったせいで、近衛家よりも藤氏長者争いが不利になった上に、領地も取り合って減ってしまったのだ。


 3つ目は九条稙通殿下の父親と祖父が、家令(まあ執事長とかんがえればいい)を借金問題で殺してしまったのだ。家令は完全な九条家の家臣ではなく、天皇陛下に仕える同じ公卿でもあるのだが、五摂家の権力で大した罪には問われなかったものの、多くの公卿公家から忌み嫌われてしまったのだ。まあ当然だろう、九条家の家計を見てくれていた、西洋的な階級でいえば伯爵であり、血縁関係では伯父さんである公家を殺したのだ。貴族社会からつまはじきにされてしまって当然であり、政敵でもある近衛家や一条家がその失点を利用して九条家を潰そうとさえしただろう。


「ほほほほほ、多禰国・大隅国・薩摩国・日向国・肥後国は当然見させていただくでおじゃるが、少将が新たに討伐したという、筑後国・肥前国・壱岐国も見させていただくでおじゃる」


「は! お願い致します」


 そうなのだ、視察に来られた近衛殿下は、新たに父上様が国司兼守護に就任された国を見るとともに、新たに俺が支配下に置いた国の視察もしたいと言い出した。当然それは賄賂と言うか、お礼の金品をお渡ししなければいけないくなるということだ。

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