第101話中村御所

1539年5月『土佐国・中村館』種子島大弐時堯・11歳


「これはこれは、わざわざのお運びありがとうございます」


「気にする事はないでおじゃる、麿も権大納言殿の顔を見たくなったのでおじゃる」


「光栄でございます、禅定太閤殿下」


「それで大弐殿に援軍を頼みたいのでおじゃるか?」


 「はい、土佐の国衆や地侍が勝手に互いに戦いを始めてしまい、土佐の民が苦しんでおります。ここは武力を持って国衆・地侍を平らげ、強い指導力で土佐を民が住み易い国にしたいと思っております」


「それは左近衛大将殿も同じ思いなのでおじゃるか?」


「はい、その思いに間違いはございません」


「直接会って確かめさてもらってよいでおじゃるか?」


「大丈夫でございます」


 そうなのだ、思いもかけないこととは、九条禅定太閤殿下が一緒に土佐中村に行くと言い張ってついて来てしまわれたのだ!


 俺としては、権大納言さまとも左近衛大将さまとも直談判して、本心を探り出したかった。だがこれで権大納言さまも左近衛大将さまも、俺が禅定太閤殿下の権威を笠に交渉を有利にしようとしていると、勘違いしかねない困った状態になってしまった。


 だが全てが悪い結果というわけでもない、それは禅定太閤殿下の権威を使えるのは当然なのだが、何よりも証人として最高の人間なのだ。一旦伊予を俺に切り取っても構わないと言ったことを後で反故には出来なくなるのだ。


「権大納言さま、種子島家に来てくれた使者の話では、伊予国を私が自由に切り取っていいとの話でしたが、本当に構わないのでしょうか?」


「構わぬ、ただ我が娘が嫁いでいる河野通政と西園寺公宣は城地を残してやって欲しい」


「なるほど、それは大切な事でございますね、河野通政殿と西園寺公宣殿には指一本触れないように致します」


「それと出来れば、一条家から養嗣子を迎えてもいいと言う家は残して欲しい、そして大弐殿の家臣としてやってくれぬか?」


「それはどう言う事でしょうか?」


「大した意味は無いよ、こんな乱世の世の中だ、一族を出来るだけ分けて血と名跡を残しただけだ」


「受け賜りました、では左近衛大将様にも直接話をさせて頂きます」


「うむ頼んだぞ」


 残念だが権大納言さまの命は長くないだろう、話の最中も随分無理をしておられたし、話の間に望診・聞診をさせてもらったが、不治の病に掛かっておられる。


 権大納言さまの前を辞した後、禅定太閤殿下と一緒に左近衛大将さまとも話をした。


「禅定太閤殿下、私としては四国一国を自分の手で切り従えたいと思っています」


「そうでおじゃるのか? ならば大弐殿に伊予切り取り勝手で援軍を求めたのはなぜでおじゃるか?」


「父上様とここにいる民部少輔が強く勧めたからでございます」


「近衛左大将さま、私としては四国統一の邪魔をするつもりなど毛頭ございませんが?」


「それは理解した、だがまあ父上様が約束され禅定太閤殿下が証人となられた事を、いまさら無しにするのは武士としても公家として許される事ではない」


「はい、そう言って頂けるなら伊予を切り取らせていただきます」


「ただ伊予だけにしてくれ、讃岐と阿波は私が切り従える」


「受け賜わりました」

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