第7話反攻作戦
「紹策殿、特別製の石鹸を少し売ってやってもよいぞ」
「本当でございますか!」
博多の商人・神谷紹策は、俺の言葉に飛びかからんばかりに前のめりになった。
「ああ、だがそれには条件がある」
「なんでございましょう? 私に出来ることなら何でもやらせていただきます!」
「なに簡単な事だ、紹策殿が連れて来ている護衛の兵を半分貸して欲しいのだ」
「! 禰寝に攻め込まれるのですな?」
「私が禰寝を取れば、博多衆は今より安く簡単に品々を買うことが出来るぞ」
「しかし私の護衛兵だけでは大した戦力にはなりません」
「今種子島に来ている全ての商人に声を掛ける、貸してくれた兵の数に応じて高級石鹸を売って差し上げる心算だ」
限界に近い動員兵力を失った禰寝領は空き家状態だった、しかし種子島家にも侵攻作戦に投入できる兵はない。そこで俺の戦いを目前に見て圧倒されている商人たちに護衛兵の貸与を持ちかけたら、俺から希少な商品を優先的に売ってもらいたい商人たちは、先を争って護衛の為に船に乗せている兵の半数を貸与してくれた。
「皆に言って聞かせることがある」
「・・・・・」
「私の家臣になるなら日に5合の玄米を扶持として与えよう」
「! 本当でございますか!」
商人から借り受けた護衛兵がとても驚愕しているが、それは当然だろう。この頃の足軽の給与は基本玄米5合に味噌が10人で2合・塩は10人で1合なのだが、シラス台地の為に米の採れない薩摩・大隅では足軽に米など支給されない、麦や稗・粟が普通なのだ。それを他国の裕福な大名並みの待遇を約束してくれるのだ、驚くのは当然だろう。
「それに合戦で手柄を立てた者は徒武者や足軽組頭に取り立てる」
「「「おう!」」」
「ただし乱暴狼藉は絶対許さん! 禰寝の民は今後我が民となる、彼らは私が護るべき者なのだ!」
「「「「は!」」」
商人の護衛兵を確保した俺は、さらに降伏した禰寝家将兵に家臣にならないか誘ってみた。大隅の常識を破る高額な給与に加え、彼らには先の合戦で俺が鬼神の類いに見えたのだろう、将といえるような一部の武士以外は皆進んで臣従を誓って来た。
降伏臣従を誓わなかった一部の将を、城の牢屋に入れて留守を守る種子島家の家臣に任せた。そして俺は商人の護衛兵と降伏した元禰寝家将兵だけを指揮して九州本土・禰寝領に乗り込んだ。
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