8話 アレク無双

 スーッと意識が浮かび上がる。それは夢から目覚める時の感覚に似ていた。というか、気絶してたんだから当たり前か。


 体に痛みはない。というか、トロールが投げた石に当たったわけだから普通は重傷を負っているはずだ。けれど、今までにないくらいに調子が良いと感じる。




「アレク、大丈夫か!?」


 村人の問いかけに無言でうなずく。そして周りを見渡すと…‥ナージャがいないことに気付いた。


「ナージャは?」


 いつもの俺なら取り乱していたはずだ。けど、不思議と心は波打つことは無く、平静だった。


「あ、ああ……アレクの敵をとるって言って、飛び出していったよ。すまん!」


 ナージャらしいと笑みが浮かぶ。そして、俺は目を閉じ意識を広げた。


 いくつかの場面が瞼の裏に浮かぶ。そこにはゴンザレスさんと並んでトロールを迎撃しているナージャの姿があった。


 魔力を掌に集め放つ、エナジーボルトの術は燃費が良くない。魔力操作だけで使えるから、お手軽な攻撃魔法として使い手は多かった。




 俺は立ち上がると背中に魔力を集める。ふと気づくと口の中に血の味がした。ナージャの血だとなぜか理解し、その智が俺に力を与えていてくれるのだとなぜかわかった。


 集めた魔力を解き放つと、俺の身体は上昇し、ナージャの魔力をたどって戦場へと飛び立った。




 掌に魔力を集める。「貫け! エナジーボルト!」


 放った魔力弾は魔物たちの頭上で弾け、10を超えるゴブリンやオークが倒れ伏した。




「アレク……」


 ナージャが目を見開いて俺を見る。少しその目が悲しげに潤んでいた。


 頭を振ると、いつもの笑顔を浮かべて俺のところに飛びついてきた。


「アレク、アレク! 無事だったのね!」


「ああ、おかげさまでね。あの時と同じだな」


「……アレク、ごめんなさい。わたしのせいで」


「これは俺の意志だよ。それにだ、嫁さんを守るのは旦那の役割、だよな」


 ナージャは耳まで真っ赤になる。彼女の背に回した手に力を籠める。




「おいおい、戦場でいちゃついてんじゃねえぞ!」


 ゴンザレスさんの茶化しが今はありがたかった。ぱっとナージャが俺から離れる。


「うー……」


 ジト目でゴンザレスさんを睨んでいた。おいおい。


「ナージャ、今からあいつらを片付ける。だから安全なとところに居てくれないか?」


「……わかった。お願いね、わたしの騎士様」


「ああ、龍王に誓う。必ず君を守り抜くと」




 置いてけぼりにされたゴンザレスさんがポカーンとしていた。


「おいおい、と言うかアレク。お前呪文使えたっけか?」


「使えるようになりました」


「なりましたって、お前あっさりと……」


「まあ、事情は後で話します。すいませんが館の中に立て籠もってください」


「……わかった。アレク!」


「はい?」


「お前が何だろうと、何者だろうとな、お前は俺の息子みたいなもんだ。それを忘れるなよ!」


「……はい、ありがとうございます」




 俺は再び上空に舞い上がり、上空から真下を見下ろす。魔物の配置を確認すると、エナジーボルトの魔法を多重起動した。


「多重起動ブート・フラクタル疾く奔れ魔力の矢よ! エナジーボルト・レイン!」


 雨あられと降り注ぐ魔力の矢は、魔物の軍勢を駆逐してゆく。


 後に残ったのは王である、ゴブリンキングと、ゴブリンから進化を遂げたオーガが5体だった。




「来いよ。虫けら」


 ゴブリンキングの前に降り立つと、挑発するように口元をゆがめて言い放つ。


「ギギギ、ムシケラハキサマダ!」


 方向を上げてオーガが迫りくる。オーガの拳を片手で受け止めそのまま腕をねじ切る。そのちぎれた腕をオーガに向かって投擲すると、胴体が爆発四散した。


 無詠唱で魔力弾をばらまく。ゴブリンキングは拙いながらも魔力障壁で防ぐが、力押ししかできないオーガは顔面や胴を貫かれ、そのまま倒れ伏す。




「さて、残るは貴様だけだな。プチっと潰されろ!」


 俺が言い終わると同時に、魔力で身体能力を強化したゴブリンキングが隠し持っていた剣を抜き放って刺突を仕掛けてきた。


 剣の腹に掌を当て、切っ先をそらす。そのままカウンターで裏拳を腹に叩き込んだ。


「GUGYAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」


 並みのモンスターならこの一撃で胴体が四散しているのだろうが、骨を折る音が聞こえただけで原形は保っている。


「へえ、大した耐久力だ」


 その後も諦め悪く襲い掛かってくるが、手加減した攻撃でどんどんダメージが蓄積されてゆく。一応オーガなら一撃で消し飛ばせる程度の威力はあるはずだ。


 一応剣技らしきものを使って斬りつけてくる。無駄のない動作からの斬撃は、一線級の剣士に匹敵した。


 その攻撃は全て空を切り、躱され、その都度反撃の打撃を受ける。もはや何度目かわからない攻防が繰り返され、もはや身動きもできないほどにゴブリンキングは疲弊していた。




「GAGAGA……」


 もはや言葉を発することもできないようだ。次に飛び掛かってきたら一気に頭を消し飛ばすと身構えていると、予想外の行動に出た。




「KISYAAAAA!」


 雄たけびと言うか、悲鳴のような声を上げ、魔力を弾けさせる。閃光が俺の目を焼き、一瞬死力を奪われる。


 魔力を探知すると、村に背を向けて逃走を図っていた。


 目覚めた俺の能力に第三の目がある。これは感覚を広げ、魔力の制御をおこなうものだ。その力を使って、俺は魔力弾を放つ。


 赤熱した弾丸がゴブリンキングの背中から追いすがり、その背に着弾した瞬間、火柱が上がり奴を焼き払った。あとには塵一つ残らなかった。


 終わったと感じた瞬間全身から力が抜けてゆく。慣れない力を振るった代償として、俺は意識を手放していくのだった。

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