38話 新たなる力
世界樹を中心にして、文字通り世界が震えた。ゴゴゴゴと地響きが起き、逃げ惑う帝国兵は地面にへたり込んでいる。
「ナージャ! エイルを!」
フェイが素早く飛び上がり、地震を避けた。しかし、上空は風が吹き荒れているという。
「主様! わたしでも飛べません!」
「なんだと!?」
フレースヴェルグ様に繋がるはずのフェイが操れない風とは一体何なんだろうか……というあたりで、雨が降り始めた。
エルフたちも揺れる地面をもんどりうって移動し、何とかひと固まりになっていた。
唐突に地面が盛り上がる。
そのまま大きな土のドームが出来たと思うと、唐突に割れた。その中から出てきたのは巨大な四足歩行の獣だ。恐ろしいほどの力を秘めているのがわかる。力強い四肢に逆立つ毛に覆われた身体。しかし、不思議と知性を感じさせる眼差しだった。
更に、降りそそいだ雨が水たまりを作ると、水たまりの中から巨大な蛇が現れた。天まで続くかと思われた長大な体はとぐろを巻き、ミスリルのような深いブルーの鱗は水に濡れて鈍く輝く。鎌首をもたげた頭の位置は、森の木の上にあるようだ。
さらにつむじ風が現れ、そこから翼の生えたトカゲが現れた。一番小さな体をしているが、秘めた力はほかの二体のドラゴンに優るとも劣らない。
(お、おおお……)
脳裏にお義父さんの声が響く、というか絶句していた。
「お義父さん、あれってまさか……?」
(うむ、ベフィモスに、レヴィアタンに、リンドブルム、だな)
「……いやまて、伝説の存在じゃ? 少なくともここ千年は目撃されてないでしょ?」
(うむ、我ら次代の龍王に引き継いだ後は眠りについているはず……だったんだが、なあ)
「千年の眠りから覚めたって、スケールがでかすぎる……」
「新たなる龍王よ。第三世代の誕生をここに祝福しよう」
「龍王の血を引く新たなる系譜よ。大いなる力を秘めし、その命の輝きよ」
「我ら大地を、空を、海を統べるもの」
「「「三龍王なり」」」
なんかわざわざ声を合わせて宣言してきた。練習とかしてた……っぽいな。どことなくウミヘビ、すなわちレヴィアタン様が微妙にドヤ顔をしている気がする。
「む、貴様ら何を固まっている?」
巨大な獣がしゃべる姿に、帝国兵たちはおびえ切って固まっていた。あれ下手するとショック死するんじゃないかな。
「始祖の龍王よ、我が名はアクセル。フレースヴェルグ様の加護を得たものなり」
アクセル爺ちゃんが名乗りを上げた。すげえ、あのとんでもない連中に真っ向から声をかけるとか……ってよく見ると足が震えてるな。いや、仕方ないよね。俺も怖いし。
「名乗りを許す。矮小なる者よ。して、何を我らに告げる?」
「はっ、恐悦至極にございまする」
うん、爺ちゃん口調がおかしい。けど、俺が口出ししてもあれなんで、とりあえず見守る。無論ナージャとエイルはガッツリ後ろにかばっている。
「まず、我らは矮小にして、皆様の威に打たれております。少し、その威を和らげていただくことはできますまいか?」
冷や汗をかきながら、爺ちゃんがまくしたてる。
「む、左様か。人というのは不便よのう……」
そう、リンドブルム様がつぶやくと、3体のドラゴンはふっとかき消すように消えた。
そしてその後には3人の人型のドラゴンがいたのだった。
妖艶な笑みを浮かべ、ブルーのドレスを身にまとったレヴィアタン様。
あのごつい四肢はどこに行った? すらっとした細身の青年に姿を変えたベフィモス様。
さらに、なぜか少年になったリンドブルム様。
龍の状態に比べれば威圧感は減った。けど、俺がグラムを全開起動させて斬りつけてもかすり傷がいいところだなってくらいに力の差があった。
「む? 貴様、面白いことになっておるな」
唐突にベフィモス様が俺の方を向く。
「ほう……というか、ニーズヘッグめ、あれほど感情に身を任せすぎるなと言うておいたのにな」
レヴィアタン様がくつくつと含み笑いを漏らす。
「はは、あれは人間の健闘をほめるべきだと思うなー」
なぜか機嫌よく笑っているリンドブルム様。
「まあ、よい。一応我らが兄弟には違いない故な。これきりじゃぞ?」
ベフィモス様が俺に手をかざす。俺の中にあった何かが引きずり出されようとしていた。
力が抜けてゆく。グラムもただの剣になっている、ということは……。俺はただの人間になっていた。そして目の前には黒い服を身にまとった壮年の男性がいる。
「は? 我どうなったの? え? 身体が…‥ある?」
「お父様!」
ナージャが目の前の男性、すなわちニーズヘッグ様に飛びついた。
「お、おお、ナージャよ、お前なのか。我が娘よ……」
「ふむ、これで良かろう。一度討たれたことによって憤怒の呪いも解けているようだしな……しかしあれじゃ。貴様、無茶をしよったな」
三体のドラゴンが俺に向けて意味ありげな視線を向けてきた。
「え、えーっと……心当たりもありますが、やっぱり?」
三者三様の表情を浮かべて俺の方に視線を向ける。
「ふん、人の身で龍王の眼を受け入れるとか、とんでもないことをするわ」
「そう言うなって。好きな女を守るためとかかっこいいじゃん!」
「ふふ、我もそのように想ってくれる相手がいれば、のう?」
レヴィアタン様、俺にはナージャという嫁がいます。ごめんなさい。
「ふむ、そうか。こんな人間もいるもんなんだなあ……」
「だね、魂の器の容量に限界が見えないとか、すごいねー」
「なれば、ニーズヘッグの力を引き抜いた分、我らが新たな力を授けようではないか」
なんか俺を置き去りにいきなり話が進んで行っている。
「は? え? ちょ?!」
彼らは俺に向け、手をかざした。
「俺からは爪を贈ろう。ちょうどいい依り代があるな。グラムか、いい剣だ」
ベフィモス様は剣を手に取ると刃部分に爪を押し当てた。キンッと音が響き、その爪が立ち割られている。
同時にただの剣になっていたグラムが恐ろしいまでの魔力を帯びていた。
「我はこの鱗を与えようぞ。深海の重みに耐えうる強固な守りを汝に授ける」
レヴィアタン様は俺の胸に掌を押し当ててきた。なんかワキワキと動いている。そして、何か冷たい力が俺の中に押し込まれた。身震いをするとその冷たさは感じなくなったが、ニーズヘッグの鱗以上の守りの力を感じられた。
「ふふ、ボクはこの翼だね。って配下にフレースヴェルグの一族がいるのか。なら、その子にも力を分け与えようかな」
俺を通じて力が流し込まれた。以前俺の魔力を食らったフェイは、その魔力の経路を通じて力が流し込まれる。
「ふわ、なんか熱い……あーーーーっ!」
フェイがなんか少年の姿になっていた。
ついでじゃないが、俺の魔力は天井知らずに上がっている。フェイ自身がフレースヴェルグ様に匹敵する存在となり、ニーズヘッグとほぼ同格だった。さらに、俺はそのフェイを従える存在だ。ということは……。
龍王の三人は心なしかぐったりしながらイイ笑顔で話しあっていた。
「「「新たなる龍王の騎士に誉あれ!」」」
なんかとんでもないことになったらしい。というあたりで、拡張された俺の感覚が上空から逆落としに降りてくる騎獣とその主の姿を捕らえていたのだった。
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