17話 王都につきました
王都まであとわずかと言うところで、フェイに伝えて街道を行くことにした。
「主殿、私はどうしたら?」
と、すでに俺の頭の上でもっふりとしている。
「そこでいいってかもう指定席だよね?」
「ここは心地よいのです」
「うん、ある意味主を足蹴にしてるけどな」
「ダメ……ですか?」
ぴょんと飛び降り、ウルウルした目で俺を見上げてくる。うん、無理。
「いいに決まってるじゃないかー!」
そうしてフェイを抱き上げモフモフする。
なんとなくナージャの目線が生暖かかった。
「うふふ、仲良しさんだねー」
そうか、フェイはオスだからな。そういうことか。
と言うわけで、フェイは俺の頭の上でもふっと丸まっている。帽子みたいな状態だ。
ナージャは俺の左手をぎゅっと握って並んで歩いている。
鼻歌を歌いつつ微笑む姿は、なんと言うか可愛い。
「んー?」
「うん」
「んふふー」
「あはは」
よくわからないやり取りもなんか楽しい。そしてすれ違う旅人や冒険者にすごく胡乱な目で見られた。いや、ただのバカップルとみられただけか。
しばらく歩いて城門についた……というか、入城待ちの行列の最後尾だ。
行列の横を武装した兵が二人組で歩いて行く。不届き者の防止や、お尋ね者を探していたりするんだろうか。
とりあえず列に並ぶ。じりじりと進む。今日中に城内に入れるんだろうかと疑問が出てくる。
ふと周りを見回すと、順番待ち整理券が配布されており、場合によってはこの辺で野宿をしている人もいるようだ。
「んー、俺はいいけどナージャを野宿させたくないなあ」
「んー、わたしはいいよー? アレクとならなんかなんでも楽しい!」
うん、気持ちはわかるっていうか俺も同じだ。というか、人並み外れたというか、文字通り人外の美少女である。やたら人目を引いてしまっているのが気になっていた。
あとはフェイも見た目はモコモコな謎生物だが、見る人が見ればフェザードラゴンとわかる者もいるだろう。
それこそ、不届き者の目に入るほどに、だ。
さて、当然のように冒険者崩れっぽいのがやってきた。
「おう、兄ちゃん。綺麗な女連れてるな?」
「ええ、自慢の妻です」
妻と言う単語にナージャがいつも通り笑い始めるかと思ったが、ツーンとしている。ただ、俺の左腕を抱え込んで半分俺の身体に隠れるような姿勢だった。
「そんなヒョロヒョロしたのにはもったいねえ。俺に乗り換えないか? 見ろ、この筋肉を!」
そう言ってなぜか上着を脱ぎ捨てると、力こぶを作り始める。
「まただ……」「いつものあいつか……」「あの兄ちゃん、かわいそうに」
なんかいろいろと言われている。俺の後ろでナージャは、「いや、気持ち悪い、と言うか臭い!」と好き放題言っていた。確かに汗臭い。
「どうだあああああ!」
渾身のポーズを決めている謎のおっさんを尻目に、進んだ前列に合わせて移動していた。
全力でポージングを決めていたため俺たちが移動したことにも気づいていなかったようだ。と言うか俺たちの場所に進んで来た青年がすごく顔をしかめながら、横を向いた。とりあえず水浴びをしような。
「てめえらなめてんのかあああああ!!」
「誰がお前みたいな汚物を舐めるか」
とりあえず、パワーだけはありそうだ。ただ、構えを見ればどうしようもない素人とわかる。ある程度の武術を修めていれば制圧するのはたやすいだろう。
ただ、なるべくなら近寄りたくない。出来たら素手で触れたくない。抑え込むなんかもってのほかだ。
かといってこんなところで攻撃魔法など使おうものなら容赦なく俺を取り押さえに来るだろう。できるかどうかはさておいて。
とりあえずどうしたものか……というあたりで衛兵が割り込んで来た。
「バリオ、またお前か!」
「うるせえ、こいつが俺に舐めた態度をとりやがったんだ!」
「どうせお前から絡んだんだろうが。さっさと家に帰れ!」
「そこの野郎を一発殴らせろ!」
「ふざけたことを言うとまた牢に入れるぞ!」
と言うあたりで会話に割り込んだ。
「とりあえず、これ見てもらっていいですか?」
ヒルダ嬢にもらったハンカチを差し出す。効果は抜群だった。
衛兵は、俺に絡んできた不届きものをあっという間にこん棒で制圧すると、首から下げていた笛を吹き鳴らす。
すると、近所の詰所から応援が駆けつけてきた。
「どうした!」
「え、えと、この方が……」
ちょっと立派な服を着た衛兵がハンカチを見て顔色を変えた。
「失礼いたしましたああああああああああああ!」
土下座せんばかりの勢いだ。
そうして、兵たちに取り囲まれて俺たちは城門をくぐった。傍から見ればお尋ね者っぽい扱いだよねこれ。
そして衛兵の詰所で、俺はジーク爺さんからの紹介状を手渡した。
詰所とはいえ、兵たちの休憩スペースなのだろうか。生活感があふれる中にも居心地の良さが考えられていた。
ナージャは簡易の寝台に寝転がって、フェイを抱き枕にすやすやと夢の中だ。思わず俺もそちらに行きたくなるが、さすがにこれから頼ろうとしている人を呼び出したあげく昼寝とか、喧嘩を売っている所業に他ならない。
ナージャの髪を撫でつつフェイをつついて俺は時間をつぶすことにした。
しばらくして、銀の髪に短槍を携えた貴公子然とした青年が現れる。
「お初にお目にかかる。ジークの孫のシリウスです。祖父がいつも世話になっています」
王都の騎士なら、そこらの貴族よりもある意味立場は上だ。王直属の家臣として認められた立場である。しかし、彼、シリウス卿ははそんなことを一切感じさせない態度だった。
「ティルの村のアレクです。こちらは妻のナージャです。よろしくお願いします」
「では、まずは私と立ち会っていただきますね?」
さわやかな笑顔でよくわからないことを言い放った。
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