80話 西の都にて

 黄龍は人身に変化し、再び降り注いだ攻撃をすべて薙ぎ払って見せた。


「ぬるいわっ!」


 その少し後に俺たちが降り立つ。フェイが風を巻き起こし、再び敵兵を弾き飛ばす。


「クカカカカカカカカカー!」


 なんかどっちが悪役かわからない状態だ。




「応龍の眷属に告ぐ。俺はアレク。西の龍王だ」


 俺が名乗ることで事態の鎮静化を図ったが、うまくいったようだ。動揺しているのか攻撃の手が鈍っている。


「俺はお前たちに敵対するものではない。その証を見せよう!」


 そうして容赦のない魔力弾の一撃を黄龍に見舞った。


「うぎょろくぬらばああああああああ!?」


 よくわからない悲鳴を上げて黄龍が吹っ飛ばされ、頭から館の壁に突き刺さる。なぜかミズチが白い眼を俺に向けてきたが無視だ。


「俺の望みは応龍への面会だ。お前たちが探すエイルは我が娘。黄龍の様子を見ればわかるだろうが、応龍の傷をいやすことができる」


 そこで蜃がポチと一緒に落ちてきた。


 なんか地面に突き刺さってぴくぴくしている。


「ナージャ」


「うん……マイナーヒール!」


 ナージャはすべての魔法に対して高い適正がある。治癒魔法もエイルほどではないが十分に人間離れした腕前だ。


 ボムッと地面が爆発し、蜃が上半身を地面から引っこ抜いた。


「みんな! 聞いてくれ! アレク殿は我々の敵じゃない!」


「ではなんだというのだ! 黄龍と共に現れたのだぞ? それに、傷も治っているどころか、パワーアップしているじゃないか!?」


「それは……エイル様の癒しの力が並外れているというか、規格外デタラメだからだ」


 一つ突っ込むべきは、俺は殿呼びなのに対して、エイルは様付きか。まあ、エイル可愛いからな。仕方ない。


「うゆ、呼んだ?」


「おお、エイル様!」


 蜃が跪く。


「うー、なんか苦しそうな声が聞こえたの」


「それこそわが主。お願いです。お助け願えませんでしょうか?」


「いいよー」


 あまりに軽い返答に蜃がガクッとコケる。


 というところで、黄龍が復活してブレスを館に向けて放った。


「くたばりゃああああああああああああああ!」


 とりあえず、間に割り込んでブレスを弾く。ブレスに対して斜めに障壁を展開し、力をそらす。


 ブレスはその軌道を変えたが、さすがに完全に防ぎきれず、館の壁を崩す。




「何事だ!」


 崩れた壁から、応龍と思われる人物が現れた。ローブをまとい、フードを被っているから顔などはよくわからない。あんだけドタバタやってたのに気づかないってことは……相当に弱っているな。




「ふん、不肖の眷属よ。親に背いた罪、その命にて償うがよい」


「王たるの務めを果たさぬ貴様に黄龍の名は過ぎたるもの。ちょうどいい、今度こそその首もらい受ける」


 というあたりで黄龍をシバキ倒してグラムを突き付ける。


「もういっぺん同じ呪いをその心臓に埋め込んでほしいらしいな?」


「いや、ちょ、すまんかった。調子に乗ってすまんかった」


「んじゃ、おとなしくしてろよ? この剣は龍を屠るための剣だ」


「っていうか、何がどうなったらそんなもんができるんじゃ! そんな剣を握って正気でおられる貴様は化け物か!?」


「ああ、化け物だよ。龍はみんな化け物だぞ? 自覚無かったのか?」


 俺の一言に黄龍だけでなく、その場にいたすべての者が黙りこくる。


「……すまぬ。お主をそしるつもりはなかったのじゃ。ただ、そんな呪いの塊みたいな剣が存在したことに驚いておる」


「ま、いいさ。とりあえず向こうの言い分を聞いてみようじゃないか……エイル!」


「はーい! うにゅるうにょろにゅるるるるるるる……リザレクション!」


 応龍の足元に魔法陣が浮かび上がった。さすがに黄龍より時間がたっていたからな。徐々に削られる命がより枯渇していたということか。


「う、うおおおおおおおおおおおおおおおおおお!?」


 心臓の位置に食い込んでいた龍の爪がぽろっと抜け落ちる。これは概念的なものなので、実際に何かが突き刺さっていたわけではない。


 フードがめくれると、長い髪がふわっと広がった。絶世の、と言ってよいほどの美貌を持った女性がそこにいる。


 ミズチが駆け寄ると、その女性、応龍はミズチにその身を預けるかのようにもたれかかった。


「ミズチ……わたしを捨てたのではなかったのか?」


「俺にはお前も黄龍様も選ぶことができ無かった。だから探したのだ。どちらも失わないですむ方法を」


「二者択一なんてのは、この世界ではよくある話であろうが。やはり貴様は愚か者だ」


「愚かでもなんでもいい。もう一度お前と生きる時間ができた。それに優ることはない」


「愚者の一念、岩をもうがったか。クハハハ。面白い」


「面白いで済ますなよ。あんまりにも色々あったんだぞ」


「良いではないか……して、西の龍王よ。あなたはわたしに何を望む? この身か?」


 にこりともせずに言い放つ姿は美丈夫というべきか。ま、こういう問いの返答は決まっている。


「俺には最高の妻がいる。よって却下だ」


「ふむ、ではあなたに隷属せよというか? それともこの国か?」


「いらん」


「なっ!? では何を望むというのだ!」


「いい加減その質問は聞き飽きたな。何回目だよ……」


 そこで黄龍が割り込んできた。


「アレク殿が望むは家族の安寧だという」


「はっ! それだけの力があれば挑む者すらいないであろうが。何をいまさら」


「俺のことはいい。聞きたいことがある」


「何なりと伺おう。我が身命はすでにあなたの掌の中にある」


「では問う。なぜこんな事をした?(・・・・・・・・・)」


 その質問に黄龍も苦り切った表情で口を閉ざした。しばしの沈黙の後、応龍が口を開いた。

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