発売日記念SS 

「ねえ、アレク、わたしたちの冒険が本になるんだって」


「え? どういうこと?」


「えーっとね。カクヨムで連載されている「スキル0冒険者の俺、結婚して龍王の騎士になる」というお話があってね、それがわたしとアレクのロマンスを書いたものなの!」


「へ、へえ。そうなんだ」


「あー、なんか引いてる? けどね、ほら、これ見て」


「……かわいい」


「うふふ、アレクが村に帰ってきた時のわたし、こんなふうに笑ってたんだね」


「お、こっちはフェイか。あの時は死にかけるくらい腹が減ってたって言ってたなあ」


「うふふ。フェイはかわいいよね」


「いや、けど、ナージャの方がもっと……」


「はわ!? アレクがわたしを可愛いって、かわいいって、にゅふふふふふふふふふふ」




 10分後。


「あ、アレクが浮気した時のだ」


「してねえ! 俺はナージャだけが大好きだ!」


「けどたまーに胸の大きいお姉さんに目が行ってない?」


「……そ、そんなことは、ない」


「ダウト!」


「うぎゃああああああああああああああああ!!?」


「うふふふ、そんなふうにほかの人に目がいかないように、そーれ!」


「うお!? ふにゅふにゅ!?」


「うふふふ、アレクはわたしが大好きなんだよね?」


「ハイ、ダイスキデス」




 さらに10分ほど後。


「まあ、ヒルダさんたしかに美人だし」


「俺はナージャがいい」


「はうっ……うふ、ありがと」


「ナーーーーージャーーーーーーアアアアアアア!」




「パパ、ママ、何してるの?」


「ん? ああ。ママが大好きだよって伝えてたんだよ」


「そうなの?」


「ええ、そうよ。エイルも大きくなって、好きな人ができたらわかるわ」


「んー、わかった。ってそのご本なに? あ、わたしだ!」


「うん、エイルはかわいいなあ」


「ぶー、アレク。みんなに可愛いって言ってるでしょ?」


「一応聞いとく。そのみんなって、誰のこと?」


「えー、わたしとエイルとフェイ!」


「家族じゃねえか!」


「あ、そういえば」


「よその人には言ってないからね?」


「んー……ほんとだね。わかったよ!」


「ナージャ、信じてくれて嬉しいけど、その根拠って何?」


「ん? アレクって嘘つく時はね、いつも同じことをするんだよ」


「へえ?」


「だからすぐわかるんだよ」


「だからね。わたしが死ぬとき、俺も死ぬって言ってね」


「それが嘘だったら?」


「自爆します」


「ちょ!?」


「なーんてね。冗談だよ」




「あ、魔法の練習してたんだよね」


「そうそう、エイルの回復魔法はすごいんだよな」


 その時、エイルの足元からリスが飛び上がってきた。エイルの肩まで一気に飛び乗れる当たり普通のリスじゃない。


「あ、リンド!」


 ぴこっと手をあげてエイルの呼びかけに答える。ふわふわのしっぽがゆらゆらしていた。


「え? ゴンザレスさんがケガしたの? うん、わかった!」


 リンドを連れてエイルは外に出て行った。




「あー、おじいちゃんと一緒に戦ってる時だ」


「あの時は本当に生きた心地がしなかったな」


「エイル生んでおいて本当によかったよ」


「おい!?」


「おじいちゃん本当に喜んでくれてたし」


「ああ、それは……そうだな」


「少しは、恩返しできたかな?」


「んー、ナージャが幸せなら爺ちゃんもうれしいと思うぞ」


「じゃあ大丈夫!」


 そういってナージャは俺の胸元に飛び込んできた。そのままナージャの眼が閉じ……バターンとドアが開いた。


「「はわっ!?」」




「あ、ゴンザレスのおじちゃん元気になったよ!」


「おお、ありがとな、エイル」


 開いたドアからゴンザレスさんの豪快な笑い声が聞こえる。




「あ、パパが綺麗な服着てた時のだ!」


「うふふ、あの時のアレクはカッコよかったわね」


「うん、けどいつもかっこいいよ? エイルのパパだもん!」


「むー、いくらエイルでもパパはあげませんからね?」




 なんだろう、これが幸せというものだろうか。俺はナージャとエイルを守っていく。それはこの二人を取り巻くものも護るということだ。


 俺は本の最後のページを閉じる。そこから先は、これから俺たちが記していく家族の物語。

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