21話 村に帰ってきました

 空を駆ける。一路故郷の村に向かって。


 気になることがあった。途中からナージャがすごく静かだ。あとよく眠る。村にいたころはすごく働き者で、くるくると休みなく動き回っていた。


 もちろん旅に慣れていないということもあるんだろう。などとのんきに考えていた。


 けれどそれでは説明出来ない違和感があったのだ。


(ふむ、もしやとは思うが……)


「お義父さん、何か心当たりが?」


(とりあえず落ち着ける場所に速く連れてゆくのだ。ただ疲れているだけならよいが、曲がりなりにも我の娘故な。そうそう疲労などで倒れたりはせぬ)


 確かにそうだ。俺も前に比べると、体が比較にならないほど頑丈になったと感じる。それに、疲労も感じない。


 以前のように自信が持てないということも減り、少し性格が明るくなったと村のみんなにも言われていた。




 俺の事は置いといて、ナージャに何かあったらと考えると胸が押しつぶされそうになる。


 レンオアムで一度ヒルダ嬢に会うべきかとも思ったが、それよりもナージャだ。彼女を休ませるにはやはり我が家がいいだろうと思い、フェイに頼んで急いでもらっていた。


「奥方様は……もしやと思いますが……」


「何かわかるのか?」


 さすが竜、人よりも詳しいのだろうか?


「いえ、確証はもてません。特にお辛そうな様子ではありませんし、悪いことにはならないと思います」


「ならいいんだが……」


 今も俺にしがみついて幸せそうな笑みを浮かべつつ眠るナージャ。


「ううん、アレクー。もう食べられないよー」


 寝言に少し脱力する。少し吹きだしたことで肩の力が抜けた気がした。


 とりあえずフェイに魔力を注入する。すると若干速度が上がった気がした。


「主殿、ちょ、それは!?」


「我が眷属に魔力を持って命ずる、疾く疾く走れ……ブースト!」


 魔法をかけると、眼下に見える風景がすごい勢いで流れ出す。それに向かい風がすごいことになってきた。


 ナージャを冷やさないように王都で買い求めたマントで包む。それと共に風に対する結界を張った。


「ヒィーーーハァーーーー! 私は今風になります! ヒャッハアアアアアアアアアアアア!!」


 フェイのテンションがおかしい。あとで聞いたが高濃度な魔力を注ぎ込まれたことによる魔力酔いらしかった。


 行きは3日かかった旅路が帰りは1日だったこともあり、なんだかんだで出発から5日でティルの村にたどり着くと……、なぜか兵に包囲されている。




「何事だ!?」


 フェイを村の真ん中に降りたたせると、地面についた瞬間小さくなって眠りについた。ナージャはその時は目を覚ましている。


「あれ? もう村についたの?」


 フェイを抱きかかえてあくびをするナージャは非常に可愛かった。




「おお、アレク! 首尾はどうじゃった?」


 俺の帰還を聞きつけたジーク爺さんがやってきた。


「ええ、とりあえず訴えは聞き届けてもらいました」


「ほほう、どなたにじゃ?」


「シグルド殿下です」


「ほほー、それはすごいの……今なんといった?」


「ですからシグルド殿下に訴えを聞き届けていただきました。これがその書簡です」


 カバンから書簡を取り出しジーク爺さんに渡す。爺さんは震える手で書簡を開くと、書いてあった内容を読み上げ始めた。


「なになに……ミッドガルズ王国王太子たるシグルドが命ずる。この書簡を持つアレクを騎士爵に任命する。重ねて、王国直轄領となったティルの村の代官に任命する……だそうじゃ」


「へ!?」


「ということで、アレク様、ご命令を」


 ジーク爺さんがおどけて俺に問いかけてくる。態度はそれっぽいがニヤニヤした笑みが全てを裏切っていた。


 俺も思わずぶふっと吹きだし、芝居がかったセリフで伝えた。


「王子の領土にて我が物顔で振る舞う者どもを排除せよ!」




 村を包囲すると言っても、出入り口を封鎖している程度だ。実際問題として、冒険者たちだけでも排除は可能だろう。


 ただし、それをやると領主に逆らったとして犯罪者扱いとなる。




「おう、アレク! どうだった?」


 村の周囲を警戒していたゴンザレスさんが声をかけてきた。


「ええ、シグルド殿下の庇護を得ることができました」


「は!? おめえ何やったんだ!?」


「えーと、シリウス卿と一騎打ちをして、勝ったらシグルド殿下が現れまして」


 ゴンザレスさんはポカーンとしている。


「王都の黒騎士と一騎打ちだってか? まあ、今のおめえなら、なあ……」


 ほかの冒険者たちもざわめく。並の騎士なら10人がかりでも倒してのけるとか、そういううわさもあとで聞いた。


 ちなみに、ゴンザレスさんはBランクだ。並の騎士ならばCランクよりやや上程度の力量らしい。


 シリウス卿の実力はAランク冒険者に匹敵するということになるのか。


「王家から預けられている聖銀の槍は持ち主の力を増幅するらしい。もちろん戦場なら色々ては考えるがな。なるべくなら戦いたくねえな」


 とりあえず書簡の件を伝え、俺は冒険者の皆を引き連れる形で門から出た。




「村から出ることまかりならぬ! 領主さまの命令である!」


 なるほど、外部から資金や物資を入手することを妨害するわけか。


 蹴散らすことはできるけども、それをやったらこっちが犯罪者になる。何とも面倒なからめ手を使うもんだ。


「その命令は無効になった。今すぐ街道の封鎖を解いていただきたい」


「領主様よりそのような命は受けておらぬ」


「ではより上位の命令ではどうか?」


「……どういうことだ?」


「ここに王太子殿下の書簡がある」


「馬鹿な! ここ数日この門を出た者は居らぬ。よってそのようなものがここにあるわけがない!」


「ではこの紋章を見ていただこうか」


「……なん、だと?」


 さすがにそれっぽい服装だけに、王家の紋章くらいは理解したか。


「すぐには返答できぬ。問い合わせの時間をいただきたい」


「承知した。明朝でよろしいか?」


「わかった」


 俺と責任者っぽい騎士のやり取りをゴンザレスさんが真面目な顔で見ていた。




「ふん、アレク、おめえなんか一回り大きくなったな」


「え? そんなことないですよ。必死ではありましたけど」


「ああ、そうだな。ナージャの嬢ちゃんを守りたいんだろ?」


「もちろんです!」


「はは、やっぱ根っこは変わらねえな。だがそれでいい」


「……はい!」


 街道を封鎖する兵たちに動揺が走っていた。王家の紋章の入った書簡の影響はそれなりにあったということだろう。




「あのくそったれ子爵の事だ。夜討ちくらいは考えておいた方がいいな」


 俺はゴンザレスさんの言葉に無言でうなずいた。ただなるべく人は殺したくない。そう考えて、方策を巡らせるのだった。

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